先生があなたに伝えたいこと
【高倉 義典】足の痛みの原因と予防について知り、百歳まで元気に歩きましょう。
西奈良中央病院 (奈良県立医科大学名誉教授)
たかくら よしのり
高倉 義典 先生
専門:足部・足関節
高倉先生の一面
1.休日には何をして過ごしますか?
スポーツ観賞と和食と日本酒を味わうことです。阪神タイガースの大ファンです(笑)。世界各国に友人と教え子がおりますので、世界中の日本料理を食べ歩いています。お酒好きで全国の銘酒を蒐集(しゅうしゅう)し、教授時代に学生から「酒蔵(さかぐら)先生」と呼ばれたこともありましたね。
2.最近気になることは何ですか?
社会全体において、若い人達が目標を持ってがむしゃらに努力するという気持ちが失われているのではないかということですね。我々の時代は何とか上に這い上がろう、上を目指そうと努力する気概を持っていたものです。そして日本中で世代全体がそういう気概を持っていた。ぜひ今の若い人のがむしゃらさに期待したいですね。
医師としては、超高齢社会にどう対応すればよいのかということが気になります。
足が痛む原因について
Q. 今回は「日本足の外科学会」の初代理事長を務められた高倉先生に、足が痛む原因と予防法、そしてその治療法などについてお話を伺いたいと思います。まずは足の構造について教えてください。
A. 医学的には足部(そくぶ)と足関節(そくかんせつ)を併せて足といいますけれども、まずは足部に注目しましょう。足部の骨の構造は、下図のようになっており、足関節はほぞとほぞ穴の関係で安定性が保たれております。また、足部はショパール関節とリスフラン関節で、前足部、中足部、後足部に分けられます。
足部には、みなさんが土踏まずとしてよくご存知の縦のアーチだけではなく横にもアーチがあります。縦横のアーチがあるお陰で、人間は二足で歩くことができるのです。正常な足は、踵(かかと)、親指、小指の3点でしっかりと体重を受けとめているのです。
荷重は
(1)踵から始まり、足の外側をすすんで
(2)小指を通り
(3)親指へと進む
また足の先の形には、親指が一番長いエジプト型、第2趾(し:足の指のこと。2番目なので足の人差し指)が長いギリシャ型、それに親指から第4趾までがほぼ同じ長さの正方形型があります。エジプト型とギリシャ型の名称は、古代の彫刻をなぞってそう呼んでいます。
Q. では、足が痛む原因とは何でしょうか?
A. これには主として8つほどの原因があります。
(1)外反母趾(がいはんぼし)
これには多くの方が悩まれていますね。日本人はエジプト型が多くてもともとなりやすい上に、靴をはく時間が延びたことで、近年急激に患者数が増えています。親指が小指のほうへ曲がり、付け根が突出して痛むもので、ヒールが高くつま先の細い靴など、足に負担のかかる靴を履き続けることで起こります。
外反母趾には2つのタイプがあって、まず10代で外反母趾になるタイプは、ある程度、解剖学的な特徴を持っていて、母親やおばあさんも外反母趾というケースが多いのです。次に通常の外反母趾は30代後半くらいから発症するタイプで、ハイヒールなどの踵の高い靴を履き続けることが原因のものです。このタイプの原因には他にも、若い時の職業が関係していたり、中年期の肥満や筋力低下によっても引き起こされたりする場合があります。
(2)内反小趾(ないはんしょうし)
小趾(小指)が内側に曲がってしまい、指の付け根が靴に当たって痛みます。主に靴が原因で最近とくに増えています。
(3)扁平足(へんぺいそく)
実は扁平足と外反母趾は親戚同士なのです。外反母趾の方は扁平足になりやすいし、扁平足の方は外反母趾になりやすいのです。なぜなら扁平足には、足の縦のアーチが崩れる扁平足と、ひどくなると横のアーチが崩れて横軸扁平足となって、横のアーチがなくなることで足の指が扇状に広がって、靴の内では親指が外反母趾の形になるのです。靴先は細くなっていますので、内側に開いて扇状になった指が圧迫されるんですね。扁平足になりますと足の裏が痛んだり疲れるほか、ひどくなりますと、歩行やスポーツ活動に支障をきたす場合もあります。
扁平足には発症する年齢によって次の3つのタイプがあります。
(a)小児期扁平足
先天性を含めていくつかの原因があります。通常は、3歳頃に背伸びをしたり、少し年長になれば足趾(あしゆび)でじゃんけんをしたりして、自然にアーチが作られますので、この時期を過ぎてもアーチができないのなら、治療対象になります。裸足の保育が大切といわれているのは、こうした自然のアーチ形成が重要だからです。
(b)思春期扁平足
先天的な要素もありますが、若い時期の就職で立ち仕事をしたりして環境が変わった時や、体の成長に伴って起こります。朝は大丈夫でも昼頃から足の裏から下腿(かたい:膝から足首までの部分)が疲れたり、痛んだりするのが特徴です。これは時間の経過により徐々に足のアーチが崩れてくるためです。ほとんどは、専用の足底板(そくていばん:靴の中敷)を利用したり、足の裏をマッサージしたりすることにより改善が見込めます。
(c)成人期扁平足
中年の女性に多くみられます。肥満や加齢による筋力低下や腱、靭帯の脆弱化(ぜいじゃくか)によって発症します。アーチを支える筋肉が正常に機能しなくなると、縦のアーチが保持できなくなり、つま先立ちができなくなって歩く際に痛みます。初期の症状は足の内側のくるぶし周辺の痛みから始まります。まずは保存的療法で、足底板を利用したり、足の裏をマッサージしたりすることによって様子をみます。
この成人期扁平足について、少し詳しくお話ししましょう。成人期扁平足は1980年代にまずアメリカで病態が発表され、日本では1985年頃からようやく認識され始めました。そのため、ベテランの先生方の中にはこの病態について詳しく知られていないケースがあり、その点が問題になっていました。そのため、私が8年前に日本足の外科学会の理事長になってから全国キャンペーンを張り、学会に登録した医師は680人から1300人にまで増えましたが、まだまだ啓蒙活動が必要な数だと思っています。
この成人期扁平足の直接的な原因としては、縦のアーチを引っ張り上げる後脛骨筋(こうけいこつきん)という筋肉が肥満や筋力低下により断裂して起こります。この筋肉は、まず縦に断裂し、次に横に断裂してその部分が腫れて、つま先立ちができなくなります。最初にくるぶしの下のあたりにピッ!とした痛みが走ります。その時点で来院していただきますと経過が良いのですが、大抵はつま先立ちができなくなってから来られます。そうしますと、場合によっては骨の手術によってアーチをつけるということが必要になり、正常になるまで半年から1年かかりますから、やはり早期発見、早期治療が大切です。
(4)足底腱膜炎(そくていけんまくえん)
縦のアーチを保っている腱膜に、これも肥満と筋力低下によりストレスが溜まって起こります。朝一番の立ち上がりの際に踵が痛み、10歩ほど歩くと痛みが和らぐのが特徴です。
(5)魚の目・タコ
慢性的に靴に当たり、皮膚の角質が硬くなって痛みます。
(6)陥入爪(かんにゅうそう)
深爪(ふかづめ)や合わない靴に親指の爪が圧迫されて、爪が皮膚に食い込んで痛みます。
(7)捻挫(ねんざ)
足首の外側にある前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)が切れます。整形外科で最も多い外傷で来院されない方も含めると、恐らく1日あたり約1万2000人の日本人が捻挫しています(アメリカの統計から日本の人口に当てはめて計算)。
(8)アキレス腱断裂
主に中年期のスポーツ活動中に起こります。断裂の瞬間は、後ろからボールをぶつけられたり、蹴られたりしたような感覚があります。実は私も40代の頃にアキレス腱断裂をして、この感覚を経験しています。
捻挫は前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)が損傷する
以上のような症例は、ほとんどが保存的治療の適用ですが、進行しますと手術というケースもありますので、「もしかして」と思われる方は早めに受診するようにしましょう。
変形性足関節症について
Q. 先生は変形性足関節症の治療を、ご自身のライフワークとして取り組んでおられます。変形性足関節症とはどのような病気なのでしょうか?
A. 変形性足関節症は、簡単にいいますと、足関節の軟骨がすり減ったり骨が変形したりすることで、関節面に痛みが起こる病気です。いろいろな原因がありますけれども、加齢とともに進行するのが通常です。若いときに捻挫を繰り返したことが起因となることも多いですね。この変形性足関節症につきましては、私の考案した手術法は広く知られていて、海外の医師が変形性足関節症の治療について論文を書くときは、必ずといっていいほど私の英語の論文が引用されています。
Q. それでは先生がご考案された手術法を含めて、治療について教えていただけますか?
A. まず図のような部分の角度を測ります。この角度の名称(TAS角)は、私の付けた名前で万国共通です。次に症状の進行度合いから1期~4期に分けて治療を行います。
1期:
足底板を挿入するなど保存的治療を行います。
2期~3a期:
私の考案した下位脛骨骨切り術(かいけいこつこつきりじゅつ)を行います。
3b期~4期:
人工足関節置換術(じんこうそくかんせつちかんじゅつ)を行います。
Q. 人工足関節置換術も、日本では先生が初めて行われたそうですね。
A. ええ。私が考えた奈良医大式といわれる人工足関節を使っての手術です。1975年に金属とポリエチレンの素材を使って作製した第1世代、1980年からはセラミックとポリエチレンの第2世代、そして1992年からは骨との接触面をビーズ型にした第3世代の人工足関節を使っています。それぞれ進化しているのですが、第3世代のもので20年を経過しました。70歳で手術をされた方が90歳の現在も元気で歩いておられ、不具合がないので、なかなか検診に来てくれないほどです(笑)。ただし問題もありまして、手術にはテクニックが必要なために、誰にでもできるということではないんですね。また当院では長期成績も安定していますが、他では必ずしもそうではないかもしれません。我々医師が技量を上げる努力をすることはもちろんですが、人工関節を製造しているメーカー側も、専門医が誰でも手術できるように、手術の際に使用する器具を改善する努力を継続してほしいと思っています。
Q. 加齢が主な原因ということは、これからの高齢社会、ますます必要になる手術ですよね。3b期~4期について、人工足関節を考案されるまではどんな手術をしていたのでしょうか?
A. 足関節固定術(そくかんせつこていじゅつ)という手術で現在でも広く行われています。これは、足首を固定して安定させる手術なのですが、固定しても足の動きには大きな支障がなく、4割の方は正座もできる大変有効な手術です。人工足関節の耐用年数は、これまでの実績は20年なので、自信を持っていえますのは20年ですから、60歳以下で発症されますと、当院では現在でも、この足関節固定術を選択しています。
正しい靴の選び方と足のマッサージ
Q. 靴が原因となることが多い足のトラブルを予防するためには、靴選びがとても重要ですね。
A. ええ。それでは足の外科医がすすめる靴選びのポイントをご紹介しましょう。
- 靴は夕方に選ぶ
- いろいろなサイズのものを履いてみる
- 両足に履いて周りを歩いてみる
- つま先に約1cmの余裕があるもの
- 足囲(足の周囲の形)にぴったり合ったもの
- 土踏まずのあるもの
- 踵をぴったりと包み込むようなもの
- 靴底は硬すぎず柔らか過ぎず
Q. 靴選びのほかに、足のトラブル予防のために役立つことはありますか?
A. 足の疲れを取りましょう。扁平足の予防と改善、外反母趾予防にも効果がありますよ。
入浴後や寝る前に、1日5分でも結構ですので、以下のことを続けてみてください。そして毎日、無理せず歩くことは、足はもちろん身体全体にとってもとてもいいことです。
- 下腿のふくらはぎから足の内側のくるぶし、足底のマッサージ
- 両手で足趾を上下に強く曲げて、縦のアーチをつける運動
- 扁平足予防のための、つま先立ちや足裏でのタオル掴み運動
- 外反母趾予防のための、足趾でグー・チョキ・パー運動
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2013.7.3
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
足の痛みの原因と予防について知り、百歳まで元気に歩きましょう。