先生があなたに伝えたいこと
【福田 康平】患者さんにより良い治療を提供するために、日々進歩する医療技術を学び続けたいと考えています。
Q. 本日は股関節と膝関節のお話を中心に伺いますが、まずこちらの整形外科の特徴をお聞かせください。
A. 当院は蒲郡市の基幹病院として、他院からの紹介や救急で来られる方を積極的に受け入れています。整形外科には変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)や変形性腰椎症(へんけいせいようついしょう)など、加齢に伴う疾患で来られる方が多いです。
Q. 先生は外来でエコー(超音波診断装置)を使った診察をされるとのことですが、エコーはどのように使われるのでしょうか?
A. エコーでは筋肉や筋膜、関節包(かんせつほう:関節液の入った袋)などを動的に(動かしながら)診察することができます。MRIでも見ることができますが、エコーは予約の必要もなく、外来で気軽に使うことができますし、関節注射などもその場で確認しながら行えます。
レントゲンでは異常が見つからずに「四十肩、五十肩」と診断されて長年悩んでいた方に、エコー検査で拘縮肩(こうしゅくがた:痛みなどで肩を動かすことができる範囲が小さくなること)や腕の腱の炎症等の診断が可能です。年単位で痛み止めを飲んでも治らなかった人が、筋膜リリース(凝り固まった筋膜をほぐすこと)等の注射ですぐに治ることもあるので、効果的な治療のためにもエコー検査は有効だといえます。
Q. その場で検査しながら治療を行えるのですね。あまり外来では見かけないのですが、特別な理由があるのでしょうか?
A. エコー診断に特別な技術が必要なわけではありませんが、整形外科ではまだ一般的ではないものの、少しずつ広がっている診断方法です。
Q. ありがとうございます。次に、先生のご専門である股関節、膝関節の疾患についてお伺いします。変形性関節症の患者さんが多いとのことですが、やはり手術が必要なのでしょうか?
A. 変形や痛みがひどいときは手術が必要になりますが、基本的にはすぐに手術になることはありません。まずは弱った筋肉を回復させるための運動療法を行います。具体的には大腿四頭筋(だいたいしとうきん:太ももの前側の筋肉)のトレーニング、股関節周囲の筋肉を柔らかくするストレッチなどです。手術に至る場合でも、術後のスムーズな回復のために、筋トレや関節の可動域(かどういき:動かすことができる範囲)を広げておくことが大切です。
また、痛みが強いときは痛み止めも使います。運動療法や薬物療法を行い、それでも改善されない場合には手術を考えます。
Q. 人工関節手術で症状はどのくらい改善されますか?
A. 人工関節は痛みを取る方法としてはかなり効果的です。手術を受けられる患者さんは、もともと痛みに耐えている方がほとんどなので、劇的に良くなったと感じると思います。術前にしっかり運動療法を行うことで、可動域も広がります。
Q. では手術の方法について伺います。人工関節手術にもいろいろな方法があるそうですが、先生はどのような方法で手術されるのでしょうか?
A. これまで人工股関節は股関節の後ろ側の筋肉を切って入れる方法が主流でしたが、私は前方、もしくは上方から手術を行っています。筋肉を切らずに済む方法なので、患者さんへの負担が少なく、術後の痛みもかなり軽減されます。痛みが小さいのでリハビリをスムーズに行え入院期間も短縮できるのが大きなメリットです。また当院では変形性股関節症だけではなく、大腿骨頸部骨折対して行う人工骨頭置換術にも同様の最先端の治療を行っています。人工股関節手術でも採用している「上方(じょうほう)アプローチ」は、一般的な方法である後方アプローチに比べ、術後に脱臼を起こす確率が格段に低くなります。当院の患者さんは農業に従事している方も多く、術後できるだけ早く仕事に復帰したいと希望されることがほとんどです。上方アプローチは脱臼しにくく、しゃがむなどの動作も可能になるので、もとの生活に戻りやすい方法です。
人工膝関節については、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい:膝を支えている主な靭帯のひとつ)を切除する方法が一般的なのですが、できるだけ残す方法を取り入れています。後十字靭帯を残すことで、より自然な膝の動きが可能になるからです。ただし、リウマチの方や靭帯がひどく損傷している方、変形が強い方は後十字靭帯を取り除くことになります。実際の手術では、あらゆる可能性を考えて準備しています。
Q. 患者さんにとってより良い方法を選択できるよう、しっかり準備をされているのですね。
A. そうです。もしも自分だったら、自分の家族だったらどうしたいか... それを考えて治療に臨むようにしています。当院のモットーは「患者さんに対し、最善の医療を行うこと」です。そのために、私たち医師が日々進歩していく医療技術を学び続け、患者さんに還元していくことが大切です。
Q. 人工関節手術以外で、特に先生が注力されている治療などはありますか?
A. 骨粗鬆症治療です。骨粗鬆症患者さんは日本に1300万人いるといわれています。その多くの方が骨粗鬆症の治療はされていないのが現状です。整形外科では大腿骨近位部骨折、胸椎腰椎圧迫骨折があり痛みのため受診され、骨折の治療と共に骨粗鬆症治療を開始することが多いです。骨折してから治療しては遅いと思います。骨粗鬆症早期より治療に介入し、骨折を予防していきたいと考えています。そのため、高齢者は骨密度検査を受けることをお勧めしています。
Q. 骨粗鬆症の治療について具体的に教えてください。
A. 骨は体内で作っては壊すことを繰り返しながら生まれ変わっていきます。これを骨代謝といいます。骨を作る働き(骨形成)が弱くなったり、骨が壊す働き(骨吸収)が強くなったりすると骨代謝のバランスがくずれ、骨粗鬆症になります。治療薬には骨形成促進薬、骨吸収抑制薬の大きく2種類があります。骨密度を測定し、採血で骨代謝マーカーを調べ、その検査結果により、患者様個々にあった治療を選択しています。
また、骨密度をあげるのに運動と日光浴が効果的なので、外を散歩することをお勧めしています。
Q. ありがとうございました。最後に、先生が整形外科医を目指されたきっかけをお聞かせください。
A. 私の父が40歳の頃、がんになりました。早期に治療できたので今は元気にしているのですが、そのときから医師という職業を意識するようになりました。また、子どもの頃に骨折をして手術を受けた経験や、サッカーなどのスポーツをしてきたことが整形外科医を目指すきっかけになったのだと思います。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2017.5.29
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
患者さんにより良い治療を提供するために、日々進歩する医療技術を学び続けたいと考えています。