先生があなたに伝えたいこと / 【藤尾 圭司】脊椎圧迫骨折や、そこから「偽関節」になるのを防ぐためにも、骨粗鬆症の予防・治療はぜひ積極的にしていただきたいですね。

先生があなたに伝えたいこと

【藤尾 圭司】脊椎圧迫骨折や、そこから「偽関節」になるのを防ぐためにも、骨粗鬆症の予防・治療はぜひ積極的にしていただきたいですね。

関西電力病院 藤尾 圭司 先生

関西電力病院
ふじお けいじ
藤尾 圭司 先生
専門:手外科・マイクロサージェリー・脊椎末梢神経外科

藤尾先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 若い人のアクティビティが落ちているように感じることです。海外に出ることもそうですが、せっかく若いうちなのだから、内向きにならずやりたいことにトライしてほしいと思いますね。

2.休日には何をして過ごしますか?
 自転車が好きで、学会に行った先でもレンタサイクルであちこち行きます。あとハイキングなど、楽しみながら体を動かすようにしています。

先生からのメッセージ

脊椎圧迫骨折や、そこから「偽関節」になるのを防ぐためにも、骨粗鬆症の予防・治療はぜひ積極的にしていただきたいですね。

脊椎圧迫骨折Q. 今回は「椎体骨折偽関節(ついたいこっせつぎかんせつ)」をテーマにお話を伺います。まずは椎体骨折について教えていただけますか。

A. 椎体骨折は専門用語で、一般には脊椎圧迫骨折といわれます。椎体、主にその前方が押し潰されてくさび型になる病態です。高齢者と若い方では原因に大きな違いがあり、若い方の場合は、高所からの転落や交通事故など大きな外傷によります。これはかなり重篤で、場合によっては下肢の麻痺に至ります。一方60歳以上の高齢者の場合は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が原因で起こることが多く、これを正式には骨粗鬆症性脊椎椎体骨折といいます。メディアでは「知らぬ間に骨折」と呼んだりしています。「知らぬ間に」骨が弱くなっていて、重い物を持ったり尻餅をついたり中腰などで力が集中的に加わることで、腰椎などに圧迫骨折を起こしてしまうのです。

Q. それでは椎体骨折偽関節とは?

関西電力病院 藤尾 圭司 先生A. 骨粗鬆症性脊椎椎体骨折に続発するもので、適切な治療をしたにも関わらず、骨が癒合しない、くっ付かないという状態のことをいいます。たとえば骨折したところの骨同士が癒合すると完全に動かなくなりますが、骨がスカスカになっているために完全に癒合せずそこがまだ動いているということです。本来動かない部分が動くので神経を圧迫して痛みも持続します。なかには、椎体骨折を起こしていても気づかず、ぎっくり腰だろう、年だから痛くても仕方ない、と放置されることもあります。そのうち痛みも治まって自然治癒したかのように思っても、しゃがんで起き上がりが痛い、痛くて中腰ができない、支えがないと歩けないといった症状でようやく病院へ来て、偽関節の状態になってしまっていることが判明することもあります。

Q. 偽関節はどのように診断するのですか?

A. レントゲンです。おじぎや体を反ってもらって撮りますと、偽関節なら、財布のがまぐちみたいにそこがパカパカと動きます。

Q. そんなに動くのですね。では治療法は?

関西電力病院 藤尾 圭司 先生A. まずは骨の癒合を促す注射(PTH製剤)をしたりコルセットを装着してもらって、1ヵ月ほど様子を診ます。これらの方法により偽関節部分の骨の癒合が期待できます。この方法で効果がなければBKP(椎体形成術)というセメントを注入する治療を行います。

Q. BKP(椎体形成術)について詳しく教えてください。

A. 圧迫骨折している背骨の左右それぞれを2mmほど切開し、椎弓根(ついきゅうこん)から針を差し込み風船を膨らませす。これは圧潰した椎体を元に戻すわけではなくて、周囲の弱い骨に圧を加えて壁を作るためです。壁がしっかりしていないとセメントが脊髄に漏れて足がしびれたり動かなくなったりすることもありますので、CTで確認してから慎重にセメントを注入します。セメントが固まるとそれ以上は潰れず、痛みも取れます。この手術では、歩けなかった人が翌日から普通に歩けて、遅くても翌々日には退院できます。傷が小さいですから術後の痛みもわずかです。

椎体形成術

Q. メリットの大きい手術ですね。デメリットとしてはどういうことが考えられますか?

A. 全身麻酔をしての手術になりますので、それに伴うリスクはあります。また、術後いくら普通に歩けるといっても、もともとの骨が弱いために固めた上下の骨に負担がかかって骨折を起こすことも考えられますので、1ヵ月はコルセットを装着する必要があります。また、骨を丈夫にするPTH製剤の注射も継続しなければなりません。ご自宅でご自分で注射をする場合は2年、病院で週に一度打っていただく場合は1年半の継続が必要です。手術をしたあとは慌てずゆっくりと元の生活に戻すというつもりで日々を送っていただきたいと思います。

Q. 患者さんによりBKP(椎体形成術)ができない場合もあるのでしょうか? そのときはどのような治療を行うのですか?

関西電力病院 藤尾 圭司 先生A. 椎体の後ろが破壊されて穴が空いている状態や、椎体がぺちゃんこでセメントを入れるスペースもないときはBKPはできませんので、「椎体置換術(ついたいちかんじゅつ)」という手術を行います。腰椎の1番、2番から胸椎の11、12番にかけて起こることが多いのですが、そのような場合、以前は、胸を切開して横隔膜も全部切って患部へ進入する大変な手術でした。そして患部にセラミックを挿入してスクリュー(釘)で留めるのですが、セラミックが壊れたり、スクリューが逸脱してお腹の合併症を引き起こしたり、再び骨折するリスクもありました。

椎体置換術Q. それがどのように変わったのでしょうか?

A. 昔はお腹から背中にかけての大きな切開が必要だったのですが、今は側腹部もしくは肋骨の間からの3cm、4cmという小さな傷で手術ができます。肋間にスペースを作り、肺をよけて患部の椎体にピンポイントでアプローチし、壊れた骨だけを取って、チタン製のスペーサーで置き換え、さらに背中から経皮的に小切開でスクリュー、ロッドで固定します。同時に骨盤から取った骨や人工骨を移植します。これらの方法で以前に比べ固定力は大幅にアップしましたし、スクリューも万一トラブルを起こしたとしてもお腹に影響せず、また上下につないで固定力を強化することも比較的簡単になりました。

関西電力病院 藤尾 圭司 先生Q. 大きな進歩ですね。

A. 開胸もなく傷も小さく出血も少ないので、患者さんの負担はずいぶん軽くなりました。また当院ではナビゲーションシステム及びO-armを導入しています。術中にO-armという術中迅速CT撮影器で撮影し、そのデータをコンピュータに読み込ませて、クルマのナビゲーションのように現在手術している位置を確認しながら手術を行いますので、より正確で安全に固定できます。その際、潰れて変形した骨をできるだけ元に戻して固定しますので、椎体置換術なら曲がった腰もほとんど元の形に近くなります。

Q. 椎体置換術の場合もコルセットの装着などは必要ですか?

A. はい、骨が付くまで3ヵ月ほどコルセットを装着していただきます。

Q. 手術のあとの生活で、患者さんが気をつけておくべきことは何でしょうか。

A. 物を持ち上げるときは腰を曲げたりしないで膝の力を利用するとか、起き上がるときには横を向いて足を前に出して徐々に起き上がるなどの動作さえ気をつけていただければ日常生活には特に支障はありません。手引書もお渡ししますが、やはり定期的な検診と骨粗鬆症の治療を続けていただくことが、次なる圧迫骨折、偽関節を防ぐためにも肝心です。あくまでも手術は局所を治療するだけですから、骨折を防ぐための全身のアフターケアはその後も必要です。

関西電力病院 藤尾 圭司 先生Q. 骨折予防には骨粗鬆症治療が不可欠なのですね。

A. その通りです。YAM(ワイ・エー・エム)という20歳から44歳までの骨密度の平均値があって、その7割を切ったら「知らぬ間」に骨折を起こすリスクが高くなります。そのような検査結果が出たら積極的に薬を飲んで治療してほしいと思います。ちなみに、日本はアジアの中でも骨粗鬆症治療をしている人の割合が低く、先進国の中で骨折の割合がとても高いのです。

Q. そうなのですね。参考までに、骨粗鬆症の検査はどのように行われるのですか?

A. 骨粗鬆症診断には、手の骨密度をX線で測るMD法、背骨、太ももの付け根、かかと、腰などどこか局所の骨密度を測るDEXA法がよく知られていますが、場所によって骨密度は差がありますし、これだけで判断するのは実は正確ではないと思います。そこで同時に、血液検査と尿検査で骨代謝マーカー量を計って、骨形成・骨吸収を調べることをおすすめしています。「骨吸収ばかり行われている」なら骨吸収を抑える薬を、「骨形成の活動が弱っている」なら骨形成を促進する薬を使って、できれば半年に1回くらいのペースで検査してもらうのが良いですね。

関西電力病院 藤尾 圭司 先生Q. ありがとうございました。最後に、治療にあたって先生がモットーにされていることと整形外科医を志された理由を教えてください。

A. 「自分の家族だったらどうするかな」、と常に考えています。だからといって遠慮せず必要とあればすべきことをする、これは揺るぎません。治療を均一に行うというのではなくて、その患者さんの生活環境や望んでいることをお聞きして、それに応えるためにはどうすべきかを、自分の身内のような視点で考え、その患者さんに合った治療法を提案することが整形外科医のあるべき姿だと思っています。
整形外科医になったのは、ずっとサッカーをやっていて怪我が多く、高校生のときは骨折もしました。そのとき本当に良い先生に恵まれたことがきっかけで整形外科医を目指すようになりました。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

藤尾 圭司 先生からのメッセージ

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取材日:2016.12.17

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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