先生があなたに伝えたいこと / 【深川 真吾】膝に痛みのある方は、早めに病院でレントゲン診断を受け、膝関節の状態を確かめることが大切です。筋肉を鍛えることで、痛みが軽減できるケースも少なくありません。

先生があなたに伝えたいこと

【深川 真吾】膝に痛みのある方は、早めに病院でレントゲン診断を受け、膝関節の状態を確かめることが大切です。筋肉を鍛えることで、痛みが軽減できるケースも少なくありません。

独立行政法人 国立病院機構 小倉医療センター 深川 真吾 先生

独立行政法人 国立病院機構 小倉医療センター
ふかがわ しんご
深川 真吾 先生
専門:膝関節

深川先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 健康維持が気になり、毎朝スムージーを作って飲んでいます。野菜や果物、プロテインを入れて飲んでいるのですが、体調だけでなく、肌の調子もよくなりました。

2.休日には何をして過ごしますか?
 スポーツが好きで、最近はジョギングや筋トレをしています。高校時代はサッカーをしていて、その時に膝の靱帯を切る大ケガをしたことが、整形外科医を志すきっかけになりました。

先生からのメッセージ

膝に痛みのある方は、早めに病院でレントゲン診断を受け、膝関節の状態を確かめることが大切です。筋肉を鍛えることで、痛みが軽減できるケースも少なくありません。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 膝関節の構造と痛みについて教えてください。

膝関節の構造A. 膝関節は、大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)から成り立っています。骨全体の表面はザラザラとしていますが、骨同士が合わさる関節部分の表面は、ツルツルとした柔らかな軟骨で覆われて、骨と骨の間にはクッションの役割を果たす半月板があります。脛骨と大腿骨の間は十字靭帯(じゅうじじんたい)や側副靭帯(そくふくじんたい)などでしっかり支持されています。
軟骨や半月板は、経年変化や外傷、体重の負荷などによってすり減ったり、亀裂が入ったりすることがあります。それによって骨同士がぶつかって炎症が起きる、あるいは膝関節が変形することで痛みが出てきます。

Q. 膝の痛みを引き起こす疾患には、どのようなものがありますか?

A. 変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)が代表的な疾患となります。60歳代以降を中心に、閉経後の女性に多くみられる疾患です。基本的にはレントゲンで診断ができますが、痛みが特に強い場合や、半月板や軟骨の状態を詳細に把握する必要があるときは、MRI検査を行うこともあります。

変形性膝関節症

Q. 治療法について教えてください。

A. 病気の原因に対する直接的な治療法ではありませんが、初期の場合は鎮痛剤で痛みが落ち着くこともあります。またO脚の方は、膝関節の変形によって膝の内側に体重がかかって痛みが出ていることがあるため、体重のかかり方の偏りを調整する足底板(そくていばん)という装具を用いる場合もあります。内側が低く、外側が高くなっているインソール(中敷き)を靴底に挿入することで、体重のかかり方が正常に戻って痛みが軽減することがあります。

O脚の図

インソール(中敷き)

手術をしない保存的な治療において、特に重要なのは体重コントロールと運動です。体重が1kg減るだけでも、膝の痛みが和らぐ方もおられます。また、筋肉が落ちてしまうと膝関節を十分に支えることができず、膝がぐらついて痛みが出ることもあります。そのため、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)と呼ばれる太ももの前側にある筋肉を鍛えることが大切です。膝を伸ばしたまま脚を上げたり、簡単なスクワットをしたりすると効果があるといわれています。

膝を伸ばしたまま脚を上げたイラスト

独立行政法人 国立病院機構 小倉医療センター 深川 真吾 先生Q. 変形性膝関節症は、どのような場合に手術になるのですか?

A. 保存的な治療を続けても痛みがとれない場合や、レントゲン診断で保存的な治療では改善が見込めないと判断できる場合は、手術の提案をします。当院は、地域の病院から紹介を受けた患者さんが、手術を目的に来院されるケースが多いです。

Q. 手術には、どのような種類がありますか?

A. 半月板が少し傷んでいる程度であれば、関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)を行うことがあります。小さな切開をして内視鏡を入れ、関節内を観察しながら変性した半月板や軟骨、増生した骨棘(こつきょく:骨同士の摩擦などによって発生する骨のとげ)の切除を行います。この手術は、あくまでも骨の引っ掛かりをなくして除痛するための一時的な手段となり、軟骨を再生するものではありません。
ほかには、骨切り術(こつきりじゅつ)といって、主に脛骨を切って、内反変形(ないはんへんけい:O脚のこと)した膝関節の角度を変える手術があります。骨を切って体重のかかり方のバランスを整えることで、痛みを取り除きます。

骨切り術の例

独立行政法人 国立病院機構 小倉医療センター 深川 真吾 先生Q. 骨切り術は、どのような方に適応になりますか?

A. 骨切り術を行うと、膝関節の外側に体重がかかるようになるので、外側の膝関節がまったく傷んでいないことが手術の条件になります。変形の程度が強くなく、靱帯もしっかりと機能している必要があるので、MRI検査などで靱帯の状態を確認します。また、切った骨がくっつくまで時間を要し、根気強くリハビリに取り組む必要があるため、比較的若くて活動性のある方が適応となります。人工膝関節の手術に比べて治療に時間はかかりますが、自分の関節が温存できるので、術後もスポーツを継続できる可能性が高くなります。

Q. 人工膝関節の手術についても教えてください。

A. 膝関節の傷んでいる部分を人工物(インプラント)に置き換える手術で、人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)と呼ばれています。痛みを発する部分を取り除いて人工物にするため高い除痛効果が期待できます。
人工膝関節置換術には、膝関節の表面をすべてインプラントに置き換える人工膝関節置全換術(じんこうひざかんせつぜんちかんじゅつ:TKA)と、膝関節の片側だけを置き換える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ:UKA)のほか、膝のお皿の部分のみを専用の小さなインプラントに置き換える膝蓋大腿関節置換術(しつがいだいたいかんせつちかんじゅつ)というものもあります。
TKAに比べてUKAでは、骨を切る範囲が狭いため手術時間も短く、出血も少ないというメリットがあります。

人工膝関節全置換術:TKA

人工膝関節全置換術:TKA

人工膝関節単顆置換術:UKA

人工膝関節単顆置換術:UKA

Q. 人工膝関節は以前と比べて進歩していますか?

A. 現在のインプラント人工膝関節は目覚ましく進歩し、耐久性が大幅に向上しています。人工膝関節には、金属と金属の間にクッションの役割を果たすポリエチレン製のパーツが挟まれています。かつてはこれが摩耗しやすかったため、人工膝関節の手術をした人の約5%が、術後15年間で入れ換える再手術が必要になっていました。
そのため、高齢になる前に手術をすると、複数回入れ換えなければならない可能性があるので、人工膝関節の手術は高齢になってから行うべきだという考え方が一般的でした。しかし現在は、ポリエチレンの材質が改良されて摩耗しにくくなり、実際に、私も医師になって20年ぐらいが経ちますが、ポリエチレン製のパーツがすり減っているのを見たことがありません。そのため人工膝関節の寿命が伸びていて人工膝関節の入れ替えのリスクも低くなってきているため、以前よりも手術の適用年齢が若くなっています。

Q. 手術において、先生が特に留意されていることはありますか?

A. 人工膝関節を正確に設置することです。手術前に、患者さんの腰から足首までのCTスキャンを撮ってコンピュータに取り込み、3次元で人工膝関節の設置をシミュレーションして手術の計画を立てています。患者さんごとに骨の形状や変形の仕方は異なるため、骨のどの場所を何ミリ削って、どう設置すれば理想的かを毎回検証しています。また術中は、骨密度の低い高齢の方は、慎重に骨を切らないと骨が崩れることもあるため、細心の注意を払っています。

CTスキャン イラスト

Q. 術後のリハビリと、退院後に気を付けるべきことを教えてください。

独立行政法人 国立病院機構 小倉医療センター 深川 真吾 先生A. 当院でのリハビリ期間は、早い方で2週間程度、高齢でじっくりリハビリしたい方は、1カ月以上入院される方もおられます。術後は、膝が腫れている状態なので曲げ伸ばしをするため痛みがありますが、冷やしたり、マッサージしたりしながら、リハビリを進めていきます。
退院後は、「最低でも3カ月間は、私やリハビリの先生の顔を思い浮かべながら、脚を動かしてください」と患者さんにお伝えしています。脚を動かさなくなると一気に筋肉が落ち、術後のリハビリで膝の曲げ伸ばしができるようになっていたにもかかわらず、1カ月後の検診時には曲がりにくくなっている方も稀におられますから。

独立行政法人 国立病院機構 小倉医療センター 深川 真吾 先生Q. 先生が治療において心がけていることをお聞かせください。

A. 術後のリハビリは、痛みがあって苦労される患者さんが多いので、なるべくリハビリ室を訪れて励ますようにしています。リハビリの進行具合を確認したり、手術によって骨がどう改善したかを話したりしながら、「もうちょっと頑張ろう!」と声をかけています。患者さんの多くは、執刀医に励まされると頑張ろうと思ってくださるようです。

Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。

深川 真吾 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2021.11.15

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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