先生があなたに伝えたいこと
【浅井 真】人工股関節置換術は、長引く変形性股関節症の痛みを軽減させることが期待できる治療法です。
公益社団法人東京都教職員互助会 三楽病院
あさい しん
浅井 真 先生
専門:股関節
浅井先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
子どもたちがどういうことに興味を持っているか気になります。流行っているものをチェックしたり、周りのパパ友と情報交換したりしています。
2.休日には何をして過ごしますか?
生まれたばかりの息子と4歳になる娘がいるので、家族と過ごす時間を大切にしています。休日は家族に手料理をふるまうのですが、娘には野菜も好きになってもらいたいので、反応をみながら色々なレシピを試しています。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
股関節の仕組みと疾患
Q. まず始めに、股関節の構造について教えてください。
A. 股関節は、大腿骨の先端にある大腿骨頭(だいたいこっとう)という丸い骨を寛骨臼(かんこつきゅう)という受け皿が包み込む構造になっています。関節の表面は軟骨というクッションのような素材で覆われ、なめらかに動くようになっています。周囲の筋肉や靭帯が関節の動きを安定させています。
Q. 股関節に多い疾患にはどのようなものがありますか?
A. 最も多いのは、大腿骨頭と寛骨臼がぶつかって削れることで痛みが起こり、変形が進んでいく変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。ほかには大腿骨頭が壊死して痛みが起こる大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)や、骨粗しょう症(こつそしょうしょう)などが原因で痛みが出てくる大腿骨脆弱性骨折(だいたいこつぜいじゃくせいこっせつ)などがあります。
Q. 変形性股関節症になると、どのような症状があらわれますか? また、その原因は何でしょうか?
A. 脚の付け根に痛みを感じることが多いですが、変形が進行しても痛みは起こらず、足を組めない、あぐらがかけないなど、関節の動きが悪くなってから初めて受診される方もいらっしゃいます。
原因は、股関節の構造上の問題や、肥満、加齢に伴って筋力が落ち、骨頭の被(かぶ)りが悪くなって変形が進むことなどが考えられます。女性に多いといわれているのは、寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)といって寛骨臼に対して大腿骨頭の被りが浅い構造です。寛骨臼形成不全とは逆に、大腿骨頭の被りが深い大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI:エフエーアイ)で寛骨臼と大腿骨頭がこすれて変形が進むケースもあります。
Q. 変形性股関節症の治療法について教えてください。
A. いきなり手術になることはほとんどなく、まずは痛み止めを服用しながら、筋肉を落とさないように、できるだけ歩くようにしていただくことが多いです。軽い運動をしているのであれば、できるだけ続けていただきます。高齢になるとお尻の筋肉を落とさないことが大切ですから、スクワットや片足で立つ運動などを指導しています。そうした保存療法で症状が治まり、手術しなくて済むようになるケースも少なくありません。
Q. 保存療法を続けても効果がみられない場合には、手術になるのでしょうか?
A. ご本人が手術に乗り気でない場合には手術すべきではないと考えています。変形が急速に進行する急速破壊型股関節症の兆候がある場合には、放置すると手術できなくなる恐れがあるので早期の手術を勧めますが、基本的に無理に手術を勧めることはありません。手術という治療の選択肢があることはお伝えしますが、あくまで患者さんの希望を尊重しています。
Q. どのような手術になりますか? 手術をするメリットは何でしょうか?
A. 関節の傷んだ部分を切除し、金属のインプラントに置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)という手術になります。傷んだ部分を換えることで痛みが治まり、動きがよくなることが期待できます。手術後の外来で日常生活が改善した患者さんの喜びの声を聞くと、医師冥利に尽きます。
Q. インプラントや手術にも色々な種類があるのでしょうか?
A. いまでは様々なサイズや形状のインプラントが開発され、患者さんの骨質に合ったものを選べるようになっています。インプラントを骨に固着させるのに骨セメントを使うセメントタイプと、表面の特殊加工で骨に固着させるセメントレスタイプがあり、私は主にセメントレスタイプを使っています。
また、術式には大腿骨頭と受け皿となる寛骨臼の両方を取り換える人工股関節全置換術(じんこうこかんせつぜんちかんじゅつ:THA)と、大腿骨頭だけを換える人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ:BHA)があり、変形性股関節症ではTHAが適応になります。高齢者に多い大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)の場合には、手術の負担を考慮してBHAにすることがあります。
Q. 人工股関節で以前に比べて進歩しているところがあれば教えてください。
A. 人工股関節には、大腿骨頭と受け皿となる寛骨臼の間に、ライナーという軟骨の役目を果たすパーツがあるのですが、そこに使うポリエチレン素材が進歩して摩耗しにくくなり、耐用年数が延びました。昔は人工股関節の手術をしても10年程度でライナーが摩耗し、入れ換え手術をする必要がありましたが、いまでは20~30年もつことが期待されています。
Q. 手術手技についてはどうですか?
A. 患部に到達する侵入方法が改善されました。以前は、後方から皮膚を大きく切開して股関節に到達する後方アプローチが主流でしたが、近年は筋肉と筋肉の間を侵入する侵襲(しんしゅう:身体へのダメージ)が少ない前方アプローチ、前側方アプローチが主流になっています。当院では変形の強い症例に限って後方アプローチを採用しています。
また、昔はレントゲンで撮影した画像を基に二次元で術前計画を立てていましたが、いまは三次元の立体画像を使って、どの位置にどの角度で人工股関節を設置するか、動きはどうなるかなど、術前計画が綿密に行えるようになりました。
合併症についてなど
Q. 手術で考えられる合併症と、合併症を防ぐために取られている対策について教えてください。
A. 合併症として感染や脱臼が挙げられます。どれだけ気を付けても感染が起こる可能性はゼロではありませんので、抗生剤を投与して予防します。術後の脱臼を防ぐためには、脱臼しやすい姿位(しい)を避けていただくよう指導しています。
Q. 治療にあたって先生が心がけられておられることはありますか?
A. 患者さんが人工股関節を入れたことを忘れてしまえるような手術を目指しています。そのために、手術前に信頼関係を築き、術後はリハビリをがんばっていただけるよう発破をかけることもあります(笑)。術後の外来時に笑顔でお話しいただけるのが一番うれしいです。
Q. 最後に、関節の痛みに悩んでいらっしゃる方にメッセージをお願いします。
A. まずは、お近くの整形外科を受診し、現在の状況を把握したうえで医師に相談していただければと思います。必ずしも手術になるわけではなく、医師と信頼関係を築ければ不安は薄れるでしょうし、治療することへの勇気が湧いてくるかもしれません。
リモート取材日:2025.1.14
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
人工股関節置換術は、長引く変形性股関節症の痛みを軽減させることが期待できる治療法です。