先生があなたに伝えたいこと / 【山田 賢太郎】本来は小さな骨が連なっている脊椎が、一本の骨になってしまうDISHの有無を見極め、手術に工夫を凝らしています。【堀 悠介】脊椎の手術がより正確で安全にできるよう、術前計画を入念に行っています。

先生があなたに伝えたいこと

【山田 賢太郎】本来は小さな骨が連なっている脊椎が、一本の骨になってしまうDISHの有無を見極め、手術に工夫を凝らしています。【堀 悠介】脊椎の手術がより正確で安全にできるよう、術前計画を入念に行っています。

医療法人宝生会 PL病院 山田 賢太郎 先生

医療法人宝生会 PL病院
やまだ  けんたろう
山田 賢太郎 先生
専門:脊椎脊髄

山田先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 昔から釣りをしたり、自転車の旅をしたりするのが好きで、今はキャンプの楽しみ方に関心を持っています。密にならずに自然に触れ、おいしい料理を編み出したいです。

2.休日には何をして過ごしますか?
 子どもを公園に連れて行くことが多いです。コロナ禍が落ち着いたら、またキャンプに行き、子どもがもっと成長したら、一緒にいろいろなレジャーにチャレンジしたいです。

医療法人宝生会 PL病院 堀 悠介 先生

医療法人宝生会 PL病院
ほり ゆうすけ
堀 悠介 先生
専門:脊椎脊髄

堀先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 通勤時にポッドキャスト(インターネット配信サービス)で歴史のラジオを聴くようになり、歴史への興味が高まっています。山田先生にもお勧めしたら、同じくハマられたようです(笑)。

2.休日には何をして過ごしますか?
 以前はスポーツジムに通ったり、バスケットボールをしたりしていました。子どもができてからは生活が一変し、公園に連れて行って一緒にいろいろな遊具で遊んでいます。

先生からのメッセージ

本来は小さな骨が連なっている脊椎が、一本の骨になってしまうDISHの有無を見極め、手術に工夫を凝らしています。(山田先生)
脊椎の手術がより正確で安全にできるよう、術前計画を入念に行っています。(堀先生)

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 脊椎(せきつい)の構造を教えてください。

A. 胸椎(きょうつい)と腰椎(ようつい)を含む脊椎は、小さな骨(椎体:ついたい)が連なっていて、骨と骨の間には力を受け止めるクッション材の役割を果たす椎間板(ついかんばん)があります。椎体の中には重要な神経が通っていて、前縦靭帯(ぜんじゅうじんたい)と後縦靭帯(こうじゅうじんたい)が椎体同士をつないでいます。これらの靱帯は、背骨が誤った動きをしないよう制限をかける働きをしています。

脊椎の構造

脊椎の断面図(横から)

Q. それらの靱帯が硬くなる病態があるのですか?

A. 難病指定にもなっている後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)という疾患は、後縦靭帯が骨に置き換わり神経を圧迫します。一方、それとよく似たものにDISH(ディッシュ)と呼ばれる、びまん性特発性骨増殖症(びまんせいとくはつせいこつぞうしょくしょう:Diffuse Idiopathic Skeletal Hyperostosis)という病態があります。こちらは前縦靭帯や背骨の側方などで、本来は複数で連なる椎体が癒合して一本の骨のようになってしまうものです。後縦靭帯骨化症と大きく異なる点は、どこも圧迫せず症状もないので、患者さんは気づかないケースが大半だということです。

後縦靭帯骨化症

正常な脊椎の断面図 DISHの断面図

医療法人宝生会 PL病院 山田 賢太郎 先生、堀 悠介 先生Q. DISHについて詳しく教えてください。

A. 関節に炎症がみられる脊椎関節炎の一種といわれています。若い方で特段の理由がなく、腰痛が1カ月以上続く場合は、脊椎関節炎の初期症状の可能性があります。その後、それがDISHになるのか、靱帯に炎症が起きて可動性がなくなる強直性脊椎炎になるのか、あるいは一過性のものに過ぎないのかは予測できず、確立された治療法や予防法がありません。

Q. DISHを患っている方は多いのですか?

A. 患者さん自身に自覚はありませんが、レントゲンを撮ると脊椎の上から下まで1本の骨でつながっている方は意外と多いです。特に男性に多くみられます。お話をよくお聞きすると、若い頃に比べて身体が硬くなって、動かしにくくなったとおっしゃいます。

Q. どのように診断されるのですか?

A. 身体が硬いからDISHの可能性が高いということではなく、あくまでも画像診断により診断します。レントゲンや CT で、本来は骨がないはずの椎体と椎体の間に骨ができているかどうかを確認します。また、動体撮影といって身体を前や後ろに曲げながらレントゲンを撮ると、骨が固まっている部分は動かないのでDISHだと診断できます。
ただし、DISHと診断したことで治療が必要になるわけではありません。DISHのある方が椎体骨折を起こしたときに、はじめて治療が必要となるケースがあります。椎体骨折とは、高齢者に多い圧迫骨折で、その8~9割は1年程度で自然に治癒します。しかし、DISHによって固まっている箇所に骨折が起こる、あるいはその周辺に負担がかかって骨折した場合は、手術を要することが多いです。そのため、当院では椎体骨折の患者さんには、まずDISHがあるかどうかを評価し、治療方法を決めます。

圧迫骨折(椎体骨折)

Q. 山田先生はDISHについて臨床研究をされているのですね?

A. はい。腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)の手術において、DISHがあると術後成績が芳しくないというデータを研究結果として報告させていただきました。DISHは、遺伝的な問題や他の疾患との関与も不明で、まだまだ研究が必要な病態です。しかし最近では、関節リウマチに似た疾患だと考えられ、リウマチの専門医が注目しています。現代の医学では、DISHで脊椎が固まってしまうと、それを溶かしてまた動くようにするのは不可能ですが、将来はそれが固まらないよう予防できるようになる可能性もあります。

Q. DISHがある場合は、椎体骨折や腰部脊柱管狭窄症の手術法は変わってきますか?

A. 一般的な脊椎の固定の手術では、骨をスクリュー(ねじ)とロッド(棒)で固定して安定させます。しかし、DISHの患者さんは骨にかかる負担が大きい分、スクリューがゆるんだり、抜けたりする確率が高くなります。そのため、海綿骨(骨の内部にある網目状の部分)を貫くようにスクリューを入れるなど、抜けにくくするための手技が必要になります。ほかにも、固定範囲を広げたり、単純なスクリューではなく引っ掛けるタイプのものを使ったり、脊椎の後ろにある椎弓(ついきゅう)の下にテープを巻いたりなど、さまざまな工夫を凝らして強固に固定します。また術後も、コルセット着用の経過観察を厳重にしています。
腰部脊柱管狭窄症の場合は、脊柱管を広げて神経の圧迫を取る除圧術を行うのが一般的ですが、こちらにも工夫が必要になります。もともと背骨に大きな負荷がかかっている分、術後の再狭窄や骨のズレが生じ、再手術になる確率が少なくありません。そのため、脊椎の支持性(関節を支える力)を低下させないよう、内視鏡を使った低侵襲(ていしんしゅう:身体への負担が少ない)な手術を行っています。

固定術の例

脊柱管狭窄症の内視鏡手術

Q. 最近の脊椎の手術は、低侵襲になってきているのですか?

A. 以前は皮膚を大きく切って開き、骨をあらわにして手術を行っていました。しかし最近は技術の進歩により、筋肉へのダメージを最小限に抑えながら、経皮的にスクリューを入れられるようになりました。そのため、以前よりも患者さんの身体にかかる負担が少なくなり、術後の痛みも減っています。
また、透視検査の精度も向上し、特殊なソフトを使って患者さんの CT 画像を見ながら、スクリューの経路をシミュレーションすることができます。術前計画を立て、それに基づいたスクリューの軌道で手術ができるので、安全性が高くなっています。

Q. より正確な手術ができるようになってきているのですね。

医療法人宝生会 PL病院 山田 賢太郎 先生、堀 悠介 先生A. スクリューは椎弓根を介して、後ろから椎体に入れて固定するのですが、スクリューを正確に設置することが重要です。昔は、レントゲンを見ずにスクリューを入れていた時代があり、狙った位置から外れているという報告が少なからずありました。現在ではその状態は改善されており、ナビゲーションシステムを使うとさらによくなるといわれています。当院ではシミュレーションソフトで術前計画を行い、術中はレントゲンで確認しながら手術を行っています。それにより、ナビゲーションシステムと同等程度の正確性が確保できていると思います。

シミュレーションソフトを使って、綿密な術前計画を立てる

DISHの手術の工程

Q. 手術時間と術後の流れを教えてください。

A. 手術時間は手技によって異なりますが、DISH の患者さんの骨折で2~3時間程度となります。術後はコルセットを装着したまま、問題がなければ手術の翌日から歩行が可能です。患者さんのもともとの歩行能力にもよりますが、元気に歩いていた方であれば術後1~2週間のリハビリで歩けるようになります。筋力低下がある方は、リハビリに筋力訓練なども追加しています。退院後はコルセットを継続して着けていただきながら、重いものを持つのは避けていただき、経過観察を行っていきます。骨折の場合は、骨がくっつくまでが治療期間なので、半年程度はコルセットを装着していただくケースが多いです。

コルセットの例

医療法人宝生会 PL病院 山田 賢太郎 先生Q. ありがとうございました。では最後に、先生方が治療において心がけていらっしゃることを教えてください。

山田先生:DISHの患者さんは高齢の方が多く、皆さん手術に不安を抱えていらっしゃいます。もちろん高齢者の手術にはリスクが伴いますが、高齢だからこそ、痛みなくご自身で歩ける身体を維持することが非常に重要だと思います。DISHの場合は、より強固な固定術が必要になりますが、そのせいで入院期間が大幅に伸びたり、長期間のリハビリが必要になったりすることがないよう工夫しています。痛みや下肢の神経麻痺などで動けなかった患者さんが、術後に歩けるようになったと感謝していただくことも多く、医師として非常に嬉しく感じています。

医療法人宝生会 PL病院 堀 悠介 先生 堀先生:DISHの患者さんが手術に踏み切って、その後の生活に満足感を得られるよう、ご本人やご家族に丁寧に説明することを心がけています。DISHは患者さん自身も気づかない病態で、脊椎の専門医でなければ認識されていない場合もあるため、専門医にかかることが極めて重要です。もちろん、我々がDISHに対する周知をしていく必要性も感じています。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

山田 賢太郎 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

堀 悠介 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2021.6.16

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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