先生があなたに伝えたいこと
【加藤 充孝】適切な時期に適切な治療をすることで健康寿命を延ばすことが期待できます。

医療法人 大医会 日進おりど病院 愛知人工関節センター
かとう みちたか
加藤 充孝 先生
専門:股関節・膝関節
加藤先生の一面
※低侵襲手術と人工股関節置換術について、詳しくお話をされているページがございます。こちらをご覧ください。
1.最近気になることは何ですか?
AI(人工知能)がどこまで進んでいくのか気になります。AIロボットが外科手術をしたという記事もあり、数十年後には外科医がいらない時代が来るかもしれません。
2.休日には何をして過ごしますか?
トレッキングを始めて、この前は山梨県の昇仙峡に登ってきました。この夏は北アルプスデビューの予定です。適度な運動は膝にもいいんですよ(笑)。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
股関節の仕組みと疾患
Q. 前回は人工股関節置換術やインプラントについてお話しいただきましたが、本日は人工股関節置換術が適用になる疾患や、膝関節の疾患・治療法についてお伺いしたいと思います。まずは股関節からおたずねします。どのような疾患や症状で人工股関節を検討するのでしょうか?
A. 軟骨がすり減って痛みや可動域制限を生じる変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)や、大腿骨頭が壊死する大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)で、リハビリや薬物療法などの保存的治療を続けても痛みが治まらない場合に、傷んだ部分を人工股関節に置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)を勧めています。


Q. 変形性股関節症や大腿骨頭壊死症になる原因は何ですか?
A. 変形性股関節症は加齢も原因の一つですが、生まれつき寛骨臼(かんこつきゅう)の被りが浅い寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)や、大腿骨と寛骨臼の形態異常で両者がぶつかりあう大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI:エフ・エー・アイ)が原因であることも多いです。早い方では40代くらいで症状があらわれます。大腿骨頭壊死症はステロイド剤をよく使うことやアルコールの過剰摂取が主な原因ですが、原因不明で発症することもあります。


Q. 手術を決断する状況や、実際に手術を受けられる患者さんの年代について教えてください。
A. 手術を勧める際には、レントゲンやCT、MRIなどの画像検査の結果も重要ですが、最も重視するのは患者さんの症状です。変形がひどくても痛みが強くない場合や、高齢で活動性が低い方であれば無理に手術をする必要はありません。逆に痛みが強くて日常生活に支障があるなら、変形がひどくなくても手術を検討します。手術される方の平均年齢は65歳前後ですが、近年は人工股関節の進歩によって若い方にも適応が広がってきています。
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Q. 人工股関節で進歩したことを教えてください。
A. 一番進歩したと考えているのは人工股関節で軟骨の役目を果たすライナーです。摩耗しにくいクロスリンクポリエチレンという素材が開発されたことで、人工股関節の術後の問題のひとつであったインプラントのゆるみが起こりにくくなり、長期成績が飛躍的に向上しました。現在、人工股関節は30年程度の耐久性が期待できるといわれています。
Q. 人工股関節以外の治療もありますか?
A. 寛骨臼形成不全が原因の変形性股関節症の場合には、骨盤側の骨を切って角度を変え、寛骨臼の被りを深くする骨切り術(こつきりじゅつ)という治療法があります。また、FAIで痛みが起こる場合には、関節鏡という細いカメラを使った関節鏡視下手術をすることもあります。骨の出っ張りが痛みの原因になっている場合は出っ張った骨を削って、本来の関節の形状に整える手術をします。


Q. 人工股関節にするメリットは何ですか?
A. 痛みなどの症状が抑えられ、股関節の機能が回復することが期待できます。人工股関節を入れたことを忘れるくらい違和感がないと話す患者さんもいます。
Q. 人工股関節には種類があるのですか?
A. 人工股関節のインプラントを骨に固着させるのに骨セメントを使うセメントタイプと、表面の特殊加工で骨に固着させるセメントレスタイプがあります。どちらにもメリットがあり、使い分けは医療施設によって異なりますが、私は主にセメントタイプを使っています。患者さんの骨の形状に合わせた手術が可能で、術中に大腿骨を骨折させてしまうリスクを低減できるとの考えからです。
Q. 手術手技にも種類がありますか?
A. 患部に到達する侵入方法に、後方から筋肉を大きく切開して股関節に到達する後方アプローチと、筋肉と筋肉の間から分け入って侵襲(しんしゅう:身体へのダメージ)を抑える前方アプローチ、前側方アプローチがあります。どのアプローチにもメリットとデメリットがあり、どれを選ぶかは術者と股関節の状態によって異なります。私は、筋肉や靭帯が温存できて術後の脱臼リスクが低い前側方アプローチを主に取り入れています。

Q. 術後のリハビリと退院までのスケジュールについて教えてください。
A. 手術翌日から理学療法士によるリハビリを始めます。70代前半くらいまでの方なら、術前の症状にもよりますが、1週間程度で退院されることが多いです。ご高齢の方は回復病棟で3週間程度じっくりリハビリを行うこともあります。
Q. 股関節の痛みを我慢してしまう方もいるかと思いますが、受診の目安はありますか?
A. 2週間以上痛みが継続するようであれば医療機関を受診することをお勧めします。半年以上痛みで日常生活にも困るようであれば、股関節を専門とする整形外科医をお訪ねください。
膝関節の仕組みと疾患
Q. 続いて、膝関節の代表的な疾患について教えてください。
A. 膝関節は、クッションの役割をもつ軟骨や半月板などで構成されています。最も多い疾患は、その軟骨や半月板が傷んだりすり減ったりすることで痛みが起こる変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。過去にスポーツでケガをしたような方は、40歳前後から症状があらわれることがあります。


Q. 変形性膝関節症の治療法について教えてください。
A. 症状に応じて注射や痛み止め、湿布をしながらリハビリや装具療法などの保存的治療から始めます。それでも痛みが治まらないようであれば、変形が進む前に骨切り術などの手術を行うことを勧めています。変形が進む前に手術をすることで、自分の膝関節を温存できる可能性が高くなります。
Q. 骨切り術はいくつになっても可能ですか?
A. 症状にもよりますが、70代後半くらいまで骨切り術は可能です。ただし50代であっても軟骨がすり減って変形が進んでいる場合には、骨切り術をしても軟骨の摩耗がさらに進行して、いずれ人工膝関節になる可能性があるので、一度の手術で済む人工膝関節置換術を勧めます。

Q. 人工膝関節置換術には種類があるのでしょうか?
A. 膝関節全体をインプラントに置き換える人工膝関節全置換術(じんこうひざかんせつぜんちかんじゅつ:TKA)と、膝関節の片側だけをインプラントに置き換える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ:UKA)があります。日本人はO脚で膝の内側を傷める方が多いので、適応が合えば内側だけ人工膝関節にするUKAが選択されることもあります。UKAは靭帯を温存できるので、自然な膝関節の動きを保ちやすいことがメリットです。
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Q. 人工膝関節の手術手技も進歩していますか?
A. 近年はO脚やX脚など、患者さんの元々の膝のタイプに応じてインプラントを入れるキネマティックアライメント法が一部で取り入れられています。また、手術支援として術前のCT画像をもとに3次元で事前にシミュレーションを行い、ナビゲーションやロボットを用いてより正確な位置にインプラントを設置できるようになってきています。
Q. 手術後のリハビリはどのように進められますか?
A. 手術翌日から理学療法士によるリハビリを開始します。膝関節は曲げ伸ばしのリハビリがより重要になります。退院後も通院でリハビリを続けていただき、長期的に満足度の高い膝にすることを目指します。
Q. 手術は怖いと感じる方も多いと思いますが、先生は患者さんの迷いや不安にどう寄り添っていらっしゃるのでしょうか?
A. 患者さんには、まず現在の膝の状態をMRI画像やスライドでお示しし、「今はこういう状態です」と丁寧にご説明します。そのうえで、保存的治療を続けた場合に想定される経過や、手術を行った場合の選択肢・見通しについてお伝えします。たとえば、「現時点なら骨切り術によって膝の機能を長く保てる可能性があります」といった情報もお伝えします。患者さんが手術をするという判断を安心して行えるよう、十分な情報提供とサポートに努めています。
Q. 治療にあたって先生が心がけていらっしゃることはありますか?
A. いくつになっても自立して生活していきたい方に、手術をすることで生活の質を高められることが期待できると知っていただきたいと思っています。症状が悪化する前に決断することが重要ですから、手術をするという重大な決断をされる際に、私たち整形外科医がサポートできればと思います。
Q. 最後に、痛みに悩んでいる方へメッセージをお願いします。
A. 適切な時期に適切な治療をすることで健康寿命を延ばすことが期待できます。つらい痛みは放置せずに早めに専門医を受診してください。
リモート取材日:2025.7.17
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。



先生からのメッセージ
適切な時期に適切な治療をすることで健康寿命を延ばすことが期待できます。