先生があなたに伝えたいこと / 【東田 将幸】長く続く肩の痛みは四十肩や五十肩ではなく、腱板断裂かもしれません。適切な治療で痛みは治まるので、放置せずに専門医にご相談ください。

先生があなたに伝えたいこと

【東田 将幸】長く続く肩の痛みは四十肩や五十肩ではなく、腱板断裂かもしれません。適切な治療で痛みは治まるので、放置せずに専門医にご相談ください。

独立行政法人 地域医療機能推進機構 りつりん病院 東田 将幸先生

独立行政法人 地域医療機能推進機構 りつりん病院
ひがしだ まさゆき
東田 将幸 先生
専門:肩関節

東田先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 キャンピングカー関連のことについてです。昔から旅行が好きで、学生時代にアメリカをキャンピングカーで横断したこともあります。最近念願のキャンピングカーを購入しました。

2.休日には何をして過ごしますか?
 休みの日はキャンピングカーで出かけることが多いです。その日の気分で目的地を決定でき、自然の中など宿があまりないところにも泊まれるのが気に入っています。

先生からのメッセージ

長く続く肩の痛みは四十肩や五十肩ではなく、腱板断裂かもしれません。適切な治療で痛みは治まるので、放置せずに専門医にご相談ください。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 本日は中高年が多く悩まれている肩の痛みを引き起こす疾患、とくに腱板断裂について詳しくお伺いします。まず、肩の痛みを引き起こすのにはどのような疾患があるのでしょうか? 肩関節の構造についても教えてください。

A. 肩関節は鎖骨、肩甲骨、上腕骨の3つの骨で構成されていて、肩甲骨と上腕骨をつなぐ腱板の働きで上腕骨が上げ下げできる構造になっています。

肩の筋肉の名称(右肩の背面図)

肩関節の疾患で最も多いのは、骨、軟骨、靱帯や腱などが加齢によって変性し、肩関節周囲の組織に炎症が起こる肩関節周囲炎、いわゆる四十肩、五十肩です。次いで多いのは腱板が切れてしまう腱板断裂ですが、ご自身で四十肩や五十肩と判断して放置されているケースも多いのが実状です。

Q. 腱板断裂はどのようなきっかけで起こるのでしょうか? 患者さんの特徴はありますか?

A. 外傷の場合と、日常生活の動作で擦り切れる場合とがあり、スポーツや仕事で肩関節を酷使している人に多くみられます。腱板は加齢によって組織が変性し、高齢になると切れやすくなります。腱板断裂の患者さんは、地域の特性にもよりますが、たとえば当院のある香川県では男女差はとくになく、60~80代くらいの方が多い印象です。

Q. 肩の痛みが強くなると、日常生活でどのような不自由があるでしょうか?

A. 服を脱ぎ着する、顔や髪を洗うということがつらくなったり、難しくなったりすることがあります。

Q. 肩に痛みがあると日常生活が大変ですね。患者さんはかなり痛みを感じた状態で来院されると思いますが、どのように診断されるのでしょうか?

A. まずはどんなときに痛みが起こるか、どういったことで生活に困っているのかを問診します。そして、明らかな変形がないか、筋肉の萎縮がないかを確認し、痛む箇所を押してみて動きを確認したり筋力が落ちていないかを診察します。その後、レントゲンやエコー、MRIにて画像診断を行います。

独立行政法人 地域医療機能推進機構 りつりん病院 東田 将幸先生Q. 腱板断裂の治療法について教えてください。

A. 基本は保存治療といって、手術以外の方法を試してみます。痛みがあれば、痛み止めの投薬、局所麻酔薬や炎症を抑えるステロイド薬といった注射で痛みが治まるか反応をみます。長年にわたって無理な肩の使い方をしている人も多く、肩の動かし方を改善することで痛みが治まることがあるので、あわせてリハビリも行います。

Q. どのようなリハビリになりますか?

A. まず肩甲胸郭関節の動きが悪くないかを確認、原因として脊椎や骨盤の不良姿勢がある様ならその部分も併せて指導を行い動きの改善に努めます。また腱板は何本かあるので、腱板が切れている場合、切れていない他の腱板を鍛え、肩がきれいに動くようにします。

Q. それでも効果がみられない場合にはどのような治療になりますか?

A. 保存治療を3ヵ月程度行っても痛みが治まらない場合には手術を提案します。切れた腱板を縫う手術か、縫えないほど大きく断裂している場合には、傷んでいる部分を人工物に換える人工肩関節置換術(じんこうかたかんせつちかんじゅつ)になることが多いです。
そこまで重症ではない場合には、関節鏡という内視鏡を用いた関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)が適応となります。1cm程度の傷を4~6ヵ所程度つけてカメラを入れ、腱板が切れている箇所を縫合する手術です。以前よりも傷が小さくなり、痛みが軽減され、リハビリ期間も短くなりました。

Q. 人工肩関節の手術についても詳しく教えてください。昔のものに比べて進歩はあるのでしょうか?

A. かつては人工肩関節の手術は腱板が切れていないことが前提で、腱板断裂の患者さんには適用がありませんでした。1986年にフランスで、肩関節の骨頭とソケットが元のものとは逆さまになった、リバース型人工肩関節が開発されました。三角筋の力を応用して肩が挙げられるようになり、腱板断裂の治療が可能になったのです。日本では10年ほど前から導入されています。

腱板を縫合する手術の例

腱板を縫合する手術の例

従来タイプの人工肩関節置換術の例

従来タイプの人工肩関節置換術の例

リバースタイプの人工肩関節置換術の例

リバースタイプの人工肩関節置換術の例

Q. 人工肩関節手術の入院期間と、術後のリハビリについて教えてください。

A. 当院では、大きな合併症が起こらなければ3週間前後を予定しています。術後は肩を三角巾や装具で固定して安静にし、手や肘のリハビリから始めます。術後2週間をめどに肩を動かし始め、2~3ヵ月後には頭の上まで肩が上がるようになることを目指します。

Q. 腱板断裂を防ぐのに効果的な生活習慣や運動がありましたら教えてください。

A. 準備運動なしでスポーツをすると肩に負担がかかってしまうので、スポーツをする方は準備運動をしっかり行ってほしいと思います。いまは動画投稿サイトでストレッチの映像も色々アップされているので、そうしたものも参考にして、ストレッチを習慣にすることをお勧めします。違和感があれば早めに病院を受診してください。
高齢の方は、筋力が低下することで腱版が擦り切れてしまうことがありますから、ラジオ体操などで普段から肩の運動を行うとよいでしょう。

Q. 先生が医師を志されたきっかけやエピソードがあれば教えてください。

A. 子どもの頃から、病気がちの父が通院や入院をするのを見ていて医療関係の仕事に興味を持ち、進路を考えるときに、病気やケガを治せる医師として社会貢献していくのが一番いいのではと思いました。数ある診療科の中で、患者さんと一緒に治し、喜びを共有できる整形外科を選びました。

Q. 治療に際して、先生が意識しておられることがあれば教えてください。

独立行政法人 地域医療機能推進機構 りつりん病院 東田 将幸先生A. 患者さんが、具体的に何に困っているのか、何を治してほしいかは、はじめから言えないことも多いものです。ですから、対話を重ね、患者さんの生活に合わせてどう治療したらいいのか一緒に考え、治療の選択肢を丁寧に説明することを心がけています。

Q. 最後に、肩の痛みに悩んでいる方へメッセージをお願いします。

A. 肩の疾患は、四十肩、五十肩と自己判断して、そのうち治ると放置して症状を悪化させてしまうことが多い疾患です。変形性肩関節症や腱板断裂など具体的に診断がつけば、適切な治療によって痛みが治まり、好きなスポーツも再びできるようになるかもしれません。長く続く肩の痛みは自己判断せずに、お近くの専門医にご相談ください。

リモート取材日:2023.9.6

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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