【青田 恵郎】人工関節手術は身体に負担の少ない手術が行われるようになりました。

公益財団法人 星総合病院
あおた　しげお
青田 恵郎 先生
専門：股関節

青田先生の一面

1.最近気になることは何ですか？
　院内でコロナ患者さんのケアに直接関わっている看護師さんたちは相当ストレスがたまっているのではないかと気がかりです。

2.休日には何をして過ごしますか？
　鯛を釣りに宮城県くらいまで出かけることが多いです。なかなか釣れませんが、釣り仲間に会いにいくのを楽しみにしています。

Q. まず始めに、股関節の特徴について教えてください。

A. 股関節は、大腿骨の先端にあるボール状の大腿骨頭（だいたいこっとう）が、骨盤側にあるソケット状の寛骨臼（かんこつきゅう）にはまり込む構造になっています。骨の表面は軟骨というクッションのような組織で覆われ、自由に曲げたり回したりできるのが特徴です。

Q. 股関節の疾患について教えてください。

A. 最も多いのは、軟骨がすり減り、骨と骨がぶつかりあうようになって痛みを感じるようになる変形性股関節症（へんけいせいこかんせつしょう）です。

ほかには、血液の流れが悪くなって大腿骨頭に血流が行き渡らず、骨が崩れてくる大腿骨頭壊死症（だいたいこっとうえししょう）や全身の関節が痛む関節リウマチなどがあります。

Q. 変形性股関節症になるには原因がありますか？

A. スポーツや日常生活動作で股関節に負荷をかけることなどが原因で加齢とともに軟骨がすり減る、あるいはもともと寛骨臼の屋根の"被り"が浅い寛骨臼形成不全（かんこつきゅうけいせいふぜん）であることが多いです。寛骨臼形成不全の場合、大腿骨頭をしっかり受け止めきれずに、軟骨がすり減りやすくなります。

ある地域の一般住民健診で年代問わず調べた結果、全体の15～20％程度で画像診断上、軟骨の損傷がみられました。変形性股関節症で実際に痛みを訴える方はその中の3～5％程度とみられています。

Q. 変形性股関節症の患者さんの特徴と具体的な症状について教えてください。

A. 50代以上の女性で、歩き始めに軟骨が擦れてすべりが悪くなるため、症状としては鼠径部や膝、太腿、お尻の辺りが痛むという方が多いです。

Q. その治療法について教えてください。

A. まずは消炎鎮痛剤や痛み止めを使いながら、運動やストレッチなどで股関節周辺の筋肉を動かす保存療法から始めます。体重を減らしたり、場合によっては杖も使ったりしながら、日常生活で股関節にかかる負担を減らすことも大切です。

Q. 保存療法で症状が落ち着くこともありますか？

A. はい。一時的に症状があらわれ、しばらく痛みが治まる方が多いです。

Q. 股関節に違和感があれば、早めに整形外科を受診した方がよいでしょうか？

A. 1週間程度痛みが続くようでしたら受診することをお勧めします。

Q. 保存療法で症状が改善しない場合、どのような治療法が考えられますか？

A. 軟骨が残っている40代くらいまでの方であれば、寛骨臼をくり抜いて角度を変え、屋根を広げて"被り"を良くする寛骨臼回転骨切り術（かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ）という方法があります。自分の骨と関節を活かせることがメリットです。

骨切り術の適用にならない方は、傷んだ箇所を人工物に置き換える人工股関節置換術（じんこうこかんせつちかんじゅつ）も治療の選択肢になります。

Q. 手術は怖いと感じる方は多いと思いますが、先生はどのように患者さんにご説明されていらっしゃるのでしょうか？

A. 股関節の疾患は命にかかわる疾患ではないので、私たちの方から手術を促すことはありません。あくまで、患者さんご自身が日常生活に困り、手術を決断されたときが手術のタイミングです。体力があり、痛みがそれほど強くない場合、何年も手術を迷われる方もいらっしゃいます。その後、痛みが急に強くなった、友達と旅行に行くのに迷惑をかけたくない、という理由で手術に踏み切る方は多いです。
ただ、高齢で、このままの状態を放置すれば体力がなくなり、肺炎など別の内科的疾患を併発して体調を崩す恐れのある場合は、早めに手術を勧めます。

Q. 人工股関節にするメリットは何でしょうか？

A. 一番のメリットは、痛みを気にせずに生活できるようになることです。

Q. 人工股関節にも色々な種類があるのでしょうか？

A. インプラントを骨に固着させるのにセメントを使うセメントタイプと、骨に固着しやすくなるようインプラントの表面に特殊加工が施されているセメントレスタイプの2種類があります。どちらも術後成績は良好です。当院では骨の変形が強い場合にはセメントタイプを、正常に近い骨の場合はセメントレスタイプを使っています。

Q. 人工股関節そのものは以前に比べて進歩しているのでしょうか？

A. 人工股関節で軟骨の役割を果たすポリエチレン素材が摩耗しにくくなり、耐用年数が飛躍的に向上しました。私が医師になった30年前、人工股関節は5年程度でゆるんでくることが多く、若い方にすべき手術ではありませんでしたが、いまは20年以上もつことが期待できるようになっています。セメントレスタイプの人工股関節も、表面加工の技術が進歩し、より骨と癒合しやすくなっています。

Q. 人工股関節手術も以前に比べて進歩していますか？

A. 皮膚の切開が小さく、削る骨の量も少なくなり、できる限り筋肉や軟部組織を温存する低侵襲（ていしんしゅう：身体への負担が少ない）手術が広く行われるようになっています。
かつては人工股関節のインプラント自体が大きく、皮膚の切開も大きかったのですが、低侵襲手術で患者さんにとっては痛みが少なくなり、回復も早くなりました。いまではリハビリは痛みがなければ手術翌日から開始し、1週間程度で歩けるようになることも期待できるようになりました。
医療器具も進歩しています。当院ではロボットを使った手術支援システム「ロボティックアーム」を導入し、インプラントを適切な位置により安全に正確に設置できるようになりました。術者は股関節機能を最大限に生かす筋肉・軟部組織のバランス調整に集中することができるようになり、患者さんにとっても術後の痛みを軽減させることが期待できます。

Q. 手術で考えられる合併症と予防策について教えてください。

A. 細菌感染、 静脈血栓症、術中の骨折などが考えられます。まず、感染対策として、当院では数年前からイソジン液で手術に使う器具の洗浄を徹底し、直近の千例で深部感染は起きていません。
血栓症を防ぐには、術前にスクリーニング、血液検査を行い、術後は血流を良くするために弾性ストッキングやフットポンプを着用します。また、低侵襲手術で皮膚切開を小さくすると、術中に骨を持ち上げることで過度の力がかかって骨折しやすくなるため、当院では筋肉をゆるめるなどして術中骨折を1％以下にまで抑えています。

Q. 実際に人工股関節の手術をされた患者さんからはどのような声が届いていますか？

A.「痛みが治まり、こんなに良くなるのだったらもっと早く手術すればよかった」とおっしゃる方が多いです。

Q. 最近、「股関節・人工股関節センター」という名称を聞くようになりましたがどのような機能があるのでしょうか？

A. 当センターの場合ですが、地域の股関節治療の中核としての役割を果たすべく開設され、人工股関節、骨切り術、関節鏡を使った手術など、あらゆる股関節疾患に高度な治療で対応できることが特長です。

Q. 先生が医師を志されたきっかけがありましたら教えてください。

A. 元々大工仕事が好きで3歳から鋸やノミを持っていたほどで、周囲に医師になることを勧められたときに整形外科が向いているのではと考えました。

Q. 最後に、先生の日々の診療でのお考えをお聞かせください。

A. これまでの経験を活かし、患者さん一人ひとりの骨や脚の状態に適した治療を行い、股関節の機能を調整・回復させることを目指しています。痛みで日常生活にも困っている方が、一人でも多く普通の生活を取り戻せるように手助けできればと願っています。さらに、後進の指導も行いながら、最先端の治療に挑戦していきたいと考えています。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

リモート取材日：2022.3.8

＊本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。