先生があなたに伝えたいこと / 【岩城 公一】合併症や術後の痛みへの対策も含めて、人工膝関節全置換術の技術は大きく進歩しています。

先生があなたに伝えたいこと

【岩城 公一】合併症や術後の痛みへの対策も含めて、人工膝関節全置換術の技術は大きく進歩しています。

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生

神戸市立医療センター中央市民病院
いわき こういち
岩城 公一 先生
専門:膝関節

岩城先生の一面

1.休日には何をして過ごしますか?
 マラソンが趣味なので走ってばかりいます。フルマラソンも3時間を切っているんですよ。

2.最近気になることは何ですか?
 医師不足ですね。医師ひとりにかかる負担が大きくなると、やがて疲れてしまって、他の医師にかかる負担が大きくなりますから悪循環です。国には、なんとか改善の道筋を示してほしいと願っています。

携帯・スマートフォンサイトもチェック!

携帯電話・スマートフォン

バーコードリーダーで読み取ってください。携帯電話・スマートフォンからもご覧いただけます。
http://kansetsu-itai.com/m/interview/dr77.php

*携帯電話・スマートフォンからアクセスしていただく場合、パケット通信料は、お客様のご負担となりますので予めご了承ください。

QRコード

先生からのメッセージ

合併症や術後の痛みへの対策も含めて、人工膝関節全置換術の技術は大きく進歩しています。

Q. 初めに、膝関節の疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生A. 人工膝関節手術に至る疾患としては、最も多いのが変形性膝関節症です。ほかに関節リウマチ、膝関節内の特発性骨壊死症(とくはつせいこつえししょう)などがあります。

Q. 特発性骨壊死症はあまり聞き慣れない言葉ですね。

A. 最近増えてきた疾患で、何らかの理由で血管が詰まって血が行きわたらなくなり、骨が死んでしまうのです。多くは、最も体重のかかる大腿骨内側の関節面に発症し、ときには脛骨の内側に発症する患者さんもおられます。ごく初期ですと自然に治まることもありますが、体重のかかる部分ですから進行して軟骨がすり減って変形が進むと、人工関節手術の適応となることもあります。

Q. 特発性ということは、発症の原因がはっきりしないのでしょうか?

A. はい。アルコールの過剰摂取やステロイド剤の大量の服用などが原因となることもありますが、多くの場合、原因はよくわかりません。

Q. 変形性膝関節症でも、原因のはっきりしない一次性(先天性)が多いと聞いています。

A. そうですね。加齢ということもありますし、体質もあるかと思います。それと、これは私の印象ですが、田舎の高齢の方に多いように感じています。農作業でかがんだりすることが背景にあるのかもしれません。痛みを我慢しながら症状を進行させてしまうので、田舎の方は我慢強いのかもしれませんね。

大腿四頭筋イラストQ. そのように原因がはっきりしないとなると、予防のしようもないのでしょうか?

A. そんなことありませんよ。まず、常日頃から筋力を鍛えておくこと。たとえば太ももの筋肉ですね、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)がしっかりしていると膝関節も安定しますので、水泳したり自転車を漕いだりといったことが効果的です。次に体重コントロールです。テレビのコマーシャルで「膝が痛いから体重が増えるのか、体重が増えたから膝が痛いのか」というようフレーズがありますが、あれは体重が増えたから、ということだと思います(笑)。

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生Q. なるほど(笑)。

A. 股関節の手術に比べますと、膝関節の手術を受けられる方は体重が重い傾向にあります。重いと、膝に余分な負担がかかって悪くなるということですね。膝にどれくらい負担がかかるかといえば、歩行では片方の膝に体重の約3倍、階段昇降では5~6倍といわれています。だから実際、膝が痛くて外来へ来られても、生活改善指導により体重を落とすと楽になられる方も多いのです。それと参考までに、ジョギングで膝が悪くなると心配される方もありますが、その危険性はないと論文で発表されています。もちろん膝の悪い方がジョギングされるのは負担が大きいですが、通常の場合はランニング、ジョギングで膝が悪くなることはないだろうと思います。

Q. わかりました。治療は早いほうがいいと思いますので、変形性膝関節症や特発性骨壊死症の初期症状を教えてください。

A. ごく初期は、立ち上がる時に痛いと訴えられる患者さんが多いです。歩き出すと案外スムーズなのですが、放置せずに診察を受けていただきたいと思います。

Q. わかりました。進行してしまうと人工関節手術の適応になるとのことですが、その基準や目安はあるのですか?

A. レントゲン所見、膝に水がたまっているかどうか、痛みがあるか、日常生活にどの程度支障があるかなど、総合的に判断します。私の場合は、いきなり手術をお勧めすることは基本的にありません。順を追って保存療法から治療を試み、それでも改善しないということになれば手術を行います。患者さんには本当に納得して手術に臨んでいただきたいですから。

Q. 保存療法とは具体的に?

A. 初期ですと湿布や鎮痛剤の投与などです。あとはヒアルロン酸の投与や先ほどもいいました太腿四頭筋の訓練ですね。看護師さんから四頭筋の訓練概要を説明してもらいますので、それをご自宅で実践していただいて、余力のある方は水中歩行やエアロバイクなどを取り入れていただければいいと思います。ほかにも、近くの開業医さんをご紹介して電気や超音波を当ててもらうこともありますし、それぞれの患者さんに応じて多方面から方法を考え選択します。温めると楽になることも多いですよ。

Q. では、レントゲンで大きな変形がみられなくても、ご本人が痛くてたまらない、というようなケースではどうでしょう。

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生A. そこですぐ手術、という選択肢はないと思います。変形がそんなに進んでいないということは軟骨がそんなには損傷していないということでもあるし、あるいは別の原因で痛みを発しているのかもしれません。ですから、MRIや関節鏡で精査するとか、鎮痛剤を使うなど様子を見ることが大事です。精神的なストレスから痛むこともありますから。
但し、いたずらに時間を引っ張らないことに気をつけています。我慢しすぎて80歳、90歳になってから手術というよりは、どこかのタイミングで手術をして、痛みのない生活を送っていただくほうがいいですから。そのへんは医師と患者さんご本人がしっかり話し合って、見極めや決断をすることが重要ですね。

人工膝関節全置換術合併症対策と痛みのコントロール~

Q. 現在、人工膝関節の耐用年数はどれくらいでしょうか?

A. 20年は保つといわれています。実際にはもっと保つでしょうけれども。患者さんには、ご年齢によっては「おそらく一生持ちますよ」とご説明しています。50代ですと入れ替えの可能性もありますが、10年前に比べましても格段に耐用年数は延びてきました。

Q. なぜ、人工膝関節の耐用年数はそこまでよくなったのですか?

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生A. 人工膝関節の形状や材質が良くなったことももちろんありますが、一番大きいのは手術手技の進歩です。たとえば皮膚切開にしても、私が研修医だった10数年前ですと20㎝くらい切るのは当たり前でした。それがだんだん小さくなって、10年くらい前にMIS(エムアイエス)といって、8㎝程度の最小の切開になりました。でも、傷が小さいということだけを求めるのではなくて、手術がしやすく高い確率で正確に設置ができる大きさということで、今は12㎝程度に落ち着いています。12㎝ですと、余分な筋肉や靭帯を傷つけることもありません。このように切開ひとつをとっても、進歩があるわけです。

Q. 以前に比べてより正確な設置が可能になったということですね。

A. はい。正確な設置は本当に大切です。体重が体の軸に沿って垂直にかからないといけないのですが、ちょっと角度が変わりますと、変な方向に負荷がかかって、人工関節の大腿骨と脛骨の間のプラスチック(超高分子量ポリエチレン)の部分の摩耗も早くなりますし、緩みも生じてきます。そういったことを防げるような手術が確立されてきたということです。

Q. 正確な設置のために先生ご自身が取り組まれていることはありますか?

A. 術前計画ですね。レントゲンを見て、変形が強い場合はCTを撮り、術前にしっかり作図をすることで手術のイメージを頭に入れて、本番でそれを再現します。作図とは、いわゆる設計図で、変形の度合に応じて骨切りをして正確な角度に人工膝関節を入れる、すなわち設計図通りに手術をすることが本当に重要なのです。

Q. ありがとうございました。次に、人工膝関節手術における主な合併症と、その予防対策について教えてください。

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生A. 人工膝関節手術では、よくいわれる合併症として、下肢深部静脈血栓症(かししんぶじょうみゃくけっせんしょう)いわゆるエコノミー症候群があります。長い間じっとしていますと、足の付け根から下の静脈の流れが遅くなり固まりやすくなります。その固まったものが血栓です。血栓は血の流れにのって体の中心へ移行します。中心部は血管が太いので詰まらないんですね。それで心臓を通り越して肺へ行きます。怖いのは、肺の血管はぐっと狭くなりますので、血栓が詰まって、肺塞栓症(はいそくせんしょう)を起こすこと。肺が死んでしまって重度になりますと息が止まってしまいます。可能性としては非常に少ないですよ。数万分の一、数十万分の一だと思いますが、起こってしまうと取り返しがつきません。

Q. 稀とはいえ、患者さんにすれば心配ですね。

A. そうですよね。けれども今は、整形外科のガイドラインもあり、肺塞栓を起こさないためのさまざまな工夫をするようになっています。たとえば手術中には弾性ストッキングで足をきゅっと締めて静脈の血流を良くして血栓ができにくくしています。また手術後1日、2日ベッドで安静にしている間は、自動的に足をマッサージするフットポンプを付けていただきます。また術後2日目くらい、出血が治まった頃に血をサラサラにするお薬を10日から2週間程度使うということもしています。ほかにも、手術後に必ず血液検査をすることで、ある程度予測もできるようになっています。Dダイマーという値が高ければ、症状がなくても血栓のできている可能性があるので、静脈エコーをして、そこで怪しいとなれば循環器内科とも相談しながら血栓溶解剤を使うなどの治療を行います。

Q. 万全に備えてもらえるのですね。

A. そうですね、また患者さんご自身にも、血栓を予防するために、術後、痛くても足の指だけでもいいからよく動かしてくださいとお願いしています。

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生Q. ほかに考えられる合併症は?

A. 大きなものは感染ですね。確率は1%といわれています。これについてもガイドラインで決められていて、48時間は抗生物質を静脈注射して抑えます。手術直前、30分から1時間以内に注射をし、手術開始から3時間後、そこから8時間ごとに行います。さらに当院では、そのあとも抗菌薬を内服していただいています。

Q. 感染についても念には念をと。

手術衣(手術中の様子)A. 感染も起こってしまうと大変ですから。感染が人工膝関節の周囲に広がりますと、人工物には抗菌薬が効きませんから、感染そのものが治りきらないということもあります。それに骨ですね。骨の中は血流がいいとはいえませんので、一旦、菌がつくとなかなか治らない。そういう不利な点が重なって、感染を起こすと、せっかく入れた人工膝関節を抜かなくてはならなくなります。入れ替えの手術は関節面を洗う必要もあり、手術自体が難しくなりますし、患者さんにも大きな負担を強いることになります。ですから感染を防ぐために、手術をする部分をアルコール消毒してからイソジンで消毒することにより殺菌効果を高めたり、これはどこの病院でもそうだと思いますが、クリーンルームで宇宙服のようなものを着用したりして、術者(じゅつしゃ:手術を行う者)の息さえも患者さんにかからないようにしています。そこまで細心の注意をして手術を行います。

Q. 合併症対策も昔に比べて進んできているということでしょうか?

A. 10年、20年前に比べるとずいぶん変わりました。たしかに進化しましたね。つけ加えると、手術はていねいにすることは当然ながら、なるべく短時間で終わらせることも合併症予防には大事なことです。

Q. リハビリにも何か変化はありますか?

A. 昔はベッドで安静にしている時間が長かったと思いますが、今では手術の翌日から、患者さんの痛みを考慮しながらも少しずつ動いていただきますし、2~3日すれば痛みもずいぶん楽になりますから、そこからはどんどん進めていきます、大体みなさん、2~3週間で階段の昇降ができるようになって退院されます。

Q. 手術後の痛みもコントロールできるようになったのでしょうか?

A. 神経ブロックを併用することで痛みはずいぶん楽になったと思います。たとえば現在では、硬膜外(こうまくがい)チューニングといって、脊髄の外側にある硬膜外腔(こうまくがいくう)というちょっとした空間に小さいカテーテルを入れ、持続的に痛み止めのお薬を入れることができるようになりました。その期間は術後2日間くらいですね。患者さんも手元で調整することができて、ボタンを押すとお薬も増量されます。それでも痛ければ点滴とか坐薬とか痛み止めを使います。

神戸市立医療センター中央市民病院 岩城 公一 先生Q. よくわかりました。最後に手術前と後で、患者さんご本人が気をつけておいたほうがいいことはありますか?

A. まず感染については術後10日から2週間で発症することが多いのですが、なかには何ヵ月、何年かたって感染を起こすこともありますので、虫歯やちょっとしたキズもすぐに治していただくことですね。虫歯の菌が膝まで及ぶ可能性がありますから。これは手術前にもいえることで、虫歯など気になるところはきちんと治療しておいていただく必要があります。糖尿病の患者さんですと血糖コントロールです。また、繰り返しになりますが、やはり減量もしていただきたいです。肥満気味の方は手術に際して血栓症、感染症のリスクが高くなりますし、手術時間も長くなります。また人工膝関節への負担も大きくなりますから、ぜひご自分のために頑張っていただきたいなと。そして手術後も無理なく筋力トレーニングを続けていただくのがいいと思いますよ。痛みが取れて歩くのも楽になりますから、あまり激しいのはダメですが、好きなスポーツを軽く趣味として楽しんでいただくくらいなら、人工膝関節は十分に耐えてくれると思います。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

岩城 公一 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2014.3.26

*本ページは個人の意見であり、必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

先生の一覧へ戻る

病院検索をする

ページトップへ戻る

先生があなたに伝えたいこと

股関節股関節

膝関節膝関節

肩関節肩関節

肘関節肘関節

足関節足関節

手の外科手の外科

脊椎脊椎

病院検索 あなたの街の病院を検索!

先生があなたに伝えたいこと 動画によるメッセージも配信中!