先生があなたに伝えたいこと / 【吉田 正弘】地域柄、農業に戻ることを希望されている患者さんも多いですね。その実現のために、人工膝関節手術はおおいに力を発揮しています。

先生があなたに伝えたいこと

【吉田 正弘】地域柄、農業に戻ることを希望されている患者さんも多いですね。その実現のために、人工膝関節手術はおおいに力を発揮しています。

聖隷三方原病院 吉田 正弘 先生

聖隷三方原病院
よしだ まさひろ
吉田 正弘 先生
専門:膝関節

吉田先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 運動不足にならないように心掛けています。だから通勤は、雨が降らない限りは自転車で通っています。30分で約10kmの道のりです。週に2回はテニスもしています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 趣味のテニスか、病院に来ていますね。平日はなかなか入院中の患者さんを回れないので、土日に回ることが多いんです。

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先生からのメッセージ

地域柄、農業に戻ることを希望されている患者さんも多いですね。
その実現のために、人工膝関節手術はおおいに力を発揮しています。

聖隷三方原病院 吉田 正弘 先生Q. 今回は人工膝関節の手術の流れについてお尋ねします。手術前の入院時期とそれまでの間、患者さんにはどのような準備があるのでしょうか?

A. 入院は手術の前日です。その1ヵ月以内に来院していただき、術前の予備検査、特に全身麻酔に必要な検査をすべて行います。合わせて手術内容や合併症の説明、入院・手術・リハビリ・退院までのおおまかな流れを説明します。患者さんご自身が準備しなければならないことは特にありませんが、手術の1ヵ月前には関節内注射を止めますので、痛みが出てしまいます。それを少し我慢していただく必要があります。また感染のリスクがあるため、できるだけ人混みへの外出は避けていただきながら、腹筋力を落とさないために歩いていただきます。他には、手術で切開する予定の部位を傷つけないようにする"心がけ"が大事になってきます。例えば、痛いからといって湿布を貼り過ぎて赤くかぶれてしまったら、それでもう手術はできなくなってしまいます。

Q. ちょっとした注意や心がけが大切なのですね。それでは入院後と手術前日にはどのようなことをするのですか?

A. 看護師や理学療法士から入院中の過ごし方や、リハビリの具体的な内容などを聞いていただきます。それと術前の膝関節の状態を把握し、現在の可動域(関節を動かすことができる角度)や筋力などを評価します。手術前の状態を詳細に把握しておくことで、術後間もなくの状態から1年、2年でどれくらい良くなったかをチェックできるようになるのです。

Q. 術前に膝関節の状態を詳細に把握することはとても重要なのですね。その状態しだいで、術後の回復に影響があるのでしょうか?

A. 術前の状態に関わらず痛みはほぼ取れるのですが、可動域は実は状態によって変わってきます。術前、比較的よく曲がっていた方はかなりの可動域が期待でき、たとえば正座のできる方もいらっしゃいます。もともと曲がりが良くないとそこまではちょっと厳しいこともあります。

聖隷三方原病院 吉田 正弘 先生Q. 自己血を採る、ということも聞いたことがあるのですが。

A. 当院では貯血(ちょけつ:手術時の自己血輸血用の血を術前に採血して保存すること)はしていません。人工膝関節手術では、駆血帯を使うので手術中の出血はほぼゼロですし、手術後の出血に対しても、切開部分を閉鎖する前にドレーンを入れ、ご自分の血を回収して洗浄して戻しています。ですから自己血を採る必要がないんです。その出血も約半日でほとんど止まります。このやり方ですと侵襲(しんしゅう:筋肉や組織を傷つけること)も小さくて済み、感染のリスクも患者さんの体の負担も少ないので、麻酔が使えて手術に耐えられる方なら年齢に関係なく手術ができます。

Q. 麻酔は全身麻酔とおっしゃられました。

A. はい。全身麻酔と併用して術後の痛みを緩和するために硬膜外ブロック(こうまくがいブロック:脊髄を包む硬膜の外側にカテーテルで持続的に麻酔薬を注入する方法)を使います。患者さんの持病や飲んでいるお薬によっては大腿神経ブロックを併用します。

Q. 全身麻酔のできない方はどうすれば良いのでしょうか?

A. 必ずしも全身麻酔でないと手術ができないわけではありません。手術自体は1時間半くらいですので、腰椎麻酔と硬膜外ブロックの組み合わせでも十分できます。なかには自ら腰椎の麻酔を希望されて、イヤホンで音楽を聞きながら手術を受けられる方もいますよ。

Q. 実際、手術のときの切開の大きさはどれくらいなのですか?

A. 10cmちょっとですね。これは皮膚切開の小ささを重視した結果ではなくて、関節内のすべてを全部きちんと見られる必要最小限度の大きさという意味です。傷の小ささばかり求めると、手術のときに皮膚を上下に引っ張る必要が生じた際に、裂けてしまうこともあるんです。もしそうなりそうなら、最初から皮膚切開を少し大きめにして手術を行います。

Q. 人工膝関節は具体的にはどのように置き換えられるのでしょうか?

A. 膝関節全体を人工関節に置き換えることを人工膝関節全置換術と言います。その方法は、関節の傷んでいる表面部分、大腿骨側の表面と脛骨側の表面を最小限削って、削った厚みの分、人工膝関節を設置します。

人工膝関節全置換術

人工膝関節全置換術

聖隷三方原病院 吉田 正弘 先生Q. 人工膝関節には種類があるのですか?

A. ええ、いくつかあるうち、当院では「フィックスドタイプ」か「モバイルタイプ」という2種類のタイプを使用しています。
使用している「フィックスドタイプ」の人工膝関節は、通常のものよりも可動域を大きく獲得できるものです。また「モバイルタイプ」は、脛骨側の人工関節のクッションの役割を果たすポリエチレン部分をがっちりと固定するのではなく、膝の動きに合わせて動かせる仕組みになっています。

Q. その2種類はどのように使い分けを?

A. 2種類に成績の差はほとんどないので、明確に使い分けをしているわけではありません。どちらも今までの人工膝関節に比べますと可動域は本当に良いですよ。人工膝関節の種類としてはもうひとつ、セメントを使用して固定するセメントタイプかセメントを使用しなくても固定できるセメントレスタイプがありますが、私はセメントタイプを採用しています。人工関節と骨との境目(界面)に骨セメントを流して固定します。

Q. セメントタイプのメリットは?

A. 手術直後からしっかり固定できるのと、骨セメントに抗生剤を少し混ぜると感染予防にプラスになるんです。そうするようになって、ここ数年は当院では感染は起きていません。感染のリスクは千分の一といわれていますが、実質ゼロです。

Q. 感染のリスクに対して十分に配慮されているわけですね。

防護服A. そうですね。手術もクリーンルームで宇宙服のような専用の服を着て、感染率の低い手術を行っています。

Q. 合併症としては血栓についてもよく聞きます。

A. これは脚の手術にはつきものですね。下肢静脈血栓症(かしじょうみゃくけっせんしょう)といいますが、脚の静脈の中に血の塊ができてしまうものです。血栓が小さい場合はそんなに問題ないんですけど、大きくなってはがれて心臓を通って肺動脈に詰まると、いわゆるエコノミークラス症候群、肺塞栓症(はいそくせんしょう)を起こし、場合によっては命にかかわります。そのリスクを下げるために、早期のリハビリが大変重要です。また血栓予防の抗凝固剤を注射か内服で使います。

Q. 早期のリハビリというのは具体的にいつから始めるのですか?

フットポンプのイラストA. 本格的なリハビリは手術の翌日からですが、手術当日にはもう動いていただきます。手術後、病室に帰ってきたら麻酔が覚めた確認を兼ねて体を動かしていただきます。その際、自動運動(じどううんどう:介助してもらってする他動運動に対して、自分の意志と力で行う運動)をしてもらいます。そうすることで、手術の当日中に車いすでトイレに行けるくらいになります。また血栓症のリスクの高い方には、フットポンプ(脚をマッサージする機械)を装着することもあります。こうしたことすべてが血栓予防につながるんです。

Q. なるほど。ところで麻酔はそんなに早く覚めるものなのですか?

A. ええ、今の麻酔は切れるのが早いですよ。補助的な麻酔も流しますが、それも切ってしまえばすぐに抜けてしまいます。だから30分もすれば目が覚めて会話もちゃんとできます。1時間半程度の手術時間に合わせた量の麻酔にしているのです。

Q. 術後の痛みはどうでしょう? 硬膜外ブロックでコントロールできますか?

聖隷三方原病院 吉田 正弘 先生A. はい、特に心配はないですよ。硬膜外ブロックは、カテーテルを通じて接続的に痛み止めを注入する方法で、術後は患者さんが手元で量を調整して痛みをコントロールすることができるんです。

Q. 先生のお話をお聞きして、患者さんの症状に応じた手術が用意されていることが理解できました。手術後の入院期間はどれくらいでしょうか? またリハビリに関して、特に取り組まれていることはありますか?

A. 手術をして退院までは10日から2週間です。リハビリに関しては特別なことではありませんけれども、当院では年間300~500例の人工膝関節手術を行っていて、入院中のリハビリの手順が確立されています。これをクリティカルパスといいますが、理学療法士がそれに沿って患者さんそれぞれのペースでリハビリを進めていきます。ほかには、看護師と一緒に歩行器で病院内を歩いたり、患者さんの希望に応じてのリハビリをしたりしています。さらに自主トレーニングの指導もしていますし、頑張れる人にはどんどん頑張っていただけるようなサポートをします。大体一週間くらいで歩行器から杖になって、退院の頃には杖一本で階段の昇り降りができるようになりますね。もちろん状態に合わせて少し長めに入院をしていただいたり、当院は急性期病院ですからリハビリ専門の病院に移っていただいたりすることもあります。

Q. 次に退院後ですが、やはり定期検診は重要でしょうね。

問診A. もちろん大切です。退院してすぐは2週間に一度のペースで来ていただいて、3ヵ月までは月に1度、それを過ぎたら当院ではできれば半年に1度、最低でも1年に1度は検診に来てもらうようにしています。

Q. 退院後の生活で注意しておいたほうが良いことはありますか?

A. 特別な制限はしてないですけど、長時間座っていると脚が腫れますので、「なるべく歩いたり動いたりしてください」とお願いしています。手術後、まだ脚の力が弱い間は転倒に気をつけながら、意識して少しでも動いていただきたいですね。長い目でみますと、農家の方は農業に復帰されていますし、グランドゴルフやお孫さんとテニスをされている方もいますよ。当院では、激しい動きでなければ、ほぼ制限なく生活していただけることを目指して人工膝関節手術をしています。そのためにもよく曲がる人工膝関節を選んで使っているんです。

Q. よくわかりました。先生が人工膝関節手術をされる際に、特に気をつけておられることを教えてください。

A. これは靭帯のバランスにつきますね。膝が伸びたときと曲がったときに関節の間にできる内・外側のすき間のバランスが等しいほうが、人工膝関節が安定しますし、可動域も良くなります。できるだけ、内・外側のすき間のバランスがとれるように、靭帯を調整しながら人工膝関節を設置します。たとえばO脚の方は内側の靭帯が縮んでいますので、内側の靭帯をゆるめて外側と近いバランスに整えます。でも絶対的に等しいほうが良いかといえば、そうともいい切れないところがあるのですが、人工膝関節に負荷がかからないようにする意味もあります。

靭帯のバランスが悪いと人工関節にも負荷がかかる図

Q. といいますと?

膝の靭帯の名称A. 私が使っている人工膝関節では、手術の際、後十字靭帯を切除します。切除することで膝を曲げ伸ばしする際に、他の靭帯に影響が出ますので調整が必要です。例えば、伸ばしているときより曲げたときのほうが少しゆるむように調整したりします。ただし、あまり差が出てもいけませんので、そのときは大腿骨の骨の切る量を調節したり、人工関節のサイズを変えたりして、ベストな調整に近づける必要があります。

Q. 微妙なバランス調整が必要なのですね。後十字靭帯を切除しないタイプの人工膝関節もあるということなのですか?

A. はい。あるのですが、手術に至る患者さんはすでに後十字靭帯そのものがかなり傷んでいますので、残してもあとで切れてバランスが変わってしまうことがあります。ですから、後十字靭帯が最初からない状態で等しいバランスを作る方が人工膝関節も長く保つだろうということで、このタイプの人工膝関節を使っているんです。

Q. 靭帯のバランスを整え正確に設置された人工膝関節では、耐用年数はどれくらいでしょうか?

A. 20年、おそらく30年でも大丈夫でしょう。ですから、60歳の方なら一度は部品交換が必要になるかもしれませんね。

Q. 人工膝関節ぜんぶを入れ換えるのではなく、部品交換でいけるのですか?

聖隷三方原病院 吉田 正弘 先生A. 人工膝関節の関節面に使われているポリエチレンが大きく摩耗しているだけで、金属部分が壊れてしまう前なら、そのポリエチレン部分の交換だけで済むこともあります。

Q. そのための定期検診でもあるのですね。

A. そうです。早期なら車でいえばタイヤ交換で対処できるのに、骨と人工膝関節の間ですき間ができたり、金属表面に傷がついてしまったりすると、人工膝関節を抜いて再置換(さいちかん:人工関節を入れ換えること)になります。部品交換なら30分ですむ手術が、再置換なら3時間かかります。

Q. 定期検診の重要性を再認識しました。話は変わりますが、先生は脊椎のご専門でもいらっしゃいますね。

A. ええ。実は、膝が痛いというのは膝関節だけの問題ではなくて、腰椎からの神経痛で痛むということも少なくないんです。人工股関節に比べて、人工膝関節の手術後の患者満足度が少し落ちるというのは、脊椎が悪いのに膝だけ手術をしてしまっていることにも関係していると考えます。変形した膝だけ対処するのではなく、たとえば脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)も隠れている場合は、腰まで治療してやっと治るんですね。股関節ではその確率は少ないのですが、膝関節では見過ごせない問題なのです。ですから首から足まで全身を総合的に診て、その中で膝が痛みの第一の原因ならば、まず膝から治します。腰の方が悪ければ先に腰を治療して、それでも膝の痛みが残っているのであれば、膝の治療をするということになります。

Q. 総合的に診ていただけると安心ですね。

聖隷三方原病院 吉田 正弘 先生A. 全身を診られる専門医のほうが良いでしょうね。というのも膝関節が変形する人は軟骨が悪くなりやすい体質で、背骨、腰、首など、他のどこかの関節も傷んでいると考えて良いと思います。おそらく軟骨の代謝異常の方が人工関節の対象になりやすいと考えています。ですから膝で来院されても私は必ず背骨のレントゲンを撮りますし、怪しいと思ったら他の部位でもそうしています。軟骨の代謝異常は手を見てもわかるんですよ。指の第一関節がポコッとして曲がっている人が多いですね。

Q. 手の指が曲がるというのは、関節リウマチではないのですか?

A. 関節リウマチとはまた違って、軟骨が傷んで骨の棘が出てきて曲がってしまうんです。つまり、変形性膝関節症や股関節症と原因が似ているということです。そういう症状の出る方は、他の関節まで変形してしまっていたり、首や坐骨神経痛が出たりということが多いように思います。

Q. 変形した指の治療については?

A. 関節リウマチはグラグラになってしまいますが、変形性の場合は生活に不自由するほど曲がることはありません。痛みも時間が過ぎればなくなります。だから対症療法となります。

Q. 指の変形は、ひとつのサインと捉えて早めに診ていただくほうがいいですね。

大腿四頭筋A. 早ければ、減量などの生活コントロールや大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を鍛える訓練など保存療法だけで改善する場合もありますから、ぜひそうしていただきたいです。

Q. いろいろと教えていただきありがとうございました。最後に、印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?

A. どなたか一人、ということではないのですが、地域柄、農業ができる人工膝関節の手術を目指して取り組んできました。現在、それがほぼ実現できています。定期検診のときに農業に復帰されたお話を聞くのは、整形外科医として何より嬉しいことです。「もっと早く手術をしておけばよかった」という声も多く、それも励みになっています。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

吉田 正弘 先生からのメッセージ

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取材日:2014.11.28

*本ページは個人の意見であり、必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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