先生があなたに伝えたいこと / 【藤田 貴也】今では人工股関節のゆるみや脱臼のリスクはかなり低減し、若い層にも手術が行えるようになりました。

先生があなたに伝えたいこと

【藤田 貴也】今では人工股関節のゆるみや脱臼のリスクはかなり低減し、若い層にも手術が行えるようになりました。

東京医療センター 藤田 貴也 先生

東京医療センター
ふじた よしなり
藤田 貴也 先生
専門:人工股関節

藤田先生の一面

1.休日には何をして過ごしますか?
 フラッグフットボールのコーチをしています。大学時代はアメリカンフットボールをしていました。

2.最近気になることは何ですか?
 最近、健康面が気になってきました。糖質制限で主食を減らすようにしています。

先生からのメッセージ

今では人工股関節のゆるみや脱臼のリスクはかなり低減し、若い層にも手術が行えるようになりました。

Q. 最近、若年層にも人工股関節置換術が行われるようになったと聞いています。若年層で、人工股関節手術の適応となる疾病にはどのようなものがあるのですか?

A. 主なものでは、先天性の臼蓋形成不全が原因で起こる変形性股関節症や、ステロイド剤の大量投与などで起こる大腿骨頭壊死症があります。

東京医療センター 藤田 貴也 先生Q. 若年層というのは何歳くらいのことをいうのでしょう? また、若い方にも手術ができるようになった理由は何でしょう?

A. 若年層とは40代後半から50代くらいの方でしょうか。昔は60歳くらいにならないとなかなか手術に踏み切れなかったのですが、人工股関節の耐用年数が長くなったことで、若い層にも手術が可能になりました。今、人工股関節が20年持つ確率は9割5分くらいといわれていますが、これは20年前の機種を入れた結果が出ているのであって、人工関節はさらに進化しています。たとえば素材面だけをみても特殊な処理を施して骨と強固に固着できる人工関節が登場するなど、現在ではもっと長く保つことが期待されています。使い方によっては、若年層の患者さんも入れ換えなしで一生保つとも考えられるようになってきました。

Q. 一生保つということになれば、患者さんには福音ですね。

A. そうですね。実際に入れ換えの手術が必要になるというのは細菌感染や反復性の脱臼(※)がほとんどで、通常の状態で機械的に人工関節がゆるんで、ということは少なくなっているんですよ。

※一度、外傷などで人工関節に強い力がかかって脱臼をおこすと、通常の日常生活動作でも簡単に脱臼してしまうこと。

Q. 細菌感染を予防するにはどうすればいいのですか?

東京医療センター 藤田 貴也 先生A. 細菌感染には手術中の感染と、手術して年月が経ってから起こる晩期の感染があります。手術中については、クリーンルームで特別な防護服を着て手術を行い、抗菌コートされた糸を使うなど細部に渡って万全を期しています。晩期の感染につきましては、患者さんご自身の細菌巣(さいきんそう:体内に存在する細菌・ウイルス・原虫など)から人工関節に感染することがありますので、歯の治療、肺炎など細菌性の疾病の治療は早め早めに行うことが大切です。

Q. では、脱臼のリスクについてもう少し詳しく教えてください。

A. 人工股関節というのは、はずれ得る構造をしているんですね。ヒトの股関節は骨頭と臼蓋とが靭帯でつながれていて、通常でははずれません。人工股関節には、ボールと臼蓋の間にそのようなつなぎとめるものがありませんので、いったん何かの衝撃で浮き上がってしまうと、そのままはずれてしまいます。

人工股関節の脱臼のリスク

ですから、いったん何かの衝撃で浮き上がってしまうと、そのままはずれてしまう。これが脱臼です。人工股関節が日常生活の中で何度もはずれてしまうということになれば、入れ換えをする必要が出てきます。

Q. 脱臼のリスクを抑えるための方法はあるのでしょうか?

筋肉を切らないOCM法A. そのためのひとつの手段として、当院では、手術においてOCM(前側方アプローチ)という手術法を採用しています。これは、切開を最小限度に抑え、股関節の前側方から筋肉を分けて進入する方法です。
この方法では、股関節の後ろ側にある筋肉をまったく切らずに済むので、大腿骨側のボールを臼蓋側に押し付ける力が温存できて、人工関節がはずれにくくなります。また、手術中は患者さんの体を横向けにしますので、足を前後に屈伸することができ、人工関節が前方や後方に脱臼する傾向がないかを確かめながら手術できるのも、OCMの優れている点だと思います。

Q. 筋肉を切らないことで術後の回復も早そうですね。

A. はい。痛みも軽いのでリハビリもスムーズに進みます。出血量もかなり少ないですし。難しい入れ換えの手術や変形があまりに強い方を除いて、9割の患者さんにOCMを選択しています。

Q. 人工股関節自体の進歩も、脱臼のリスクを減らすのに役立っているのでしょうね。

A. それはもちろんです。具体的には、昔より大きな骨頭ボールを使用できる人工関節が出てきました。かつては22mmの骨頭が主流でしたが、今は32mmくらいのものを選ぶことが多いです。骨頭が大きくなりますと人工関節の可動域(※)も大きくなります。また、その分ジャンピングディスタンスという、はずれるまでの距離も稼ぐことができるようになり、はずれにくくなります。すなわち、脱臼しづらい。とはいえ、いくらでも大きくすればいいのかというとそうではありません。

※人工関節が脱臼を起こさずに動くことができる範囲。

骨頭ボールの大きさの違いによる可動域の差

骨頭が小さい場合骨頭が大きい場合

骨頭径の違いによるジャンピングディスタンスの差

骨頭が小さい場合骨頭が大きい場合

Q. 理想に近い大きさというのがあると...。

東京医療センター 藤田 貴也 先生A. ええ。人工股関節手術を受けられるのは女性が多いのですが、日本人の女性ですと臼蓋のソケットの大きさが一般的には48mm~52mmです。では骨頭が大きい方がいいのでは、と思われるかもしれませんが、それでは受け皿となる関節面のポリエチレンが薄くなってしまいます。薄くなってしまうとそれだけ変形しやすい、つまり摩耗もしやすくなるということなんですね。ポリエチレンが摩耗すると、その摩耗粉が人工関節と骨の間に入ってしまい、摩耗粉を異物と認識した生体(細胞)が反応して、周囲の骨を溶かしてしまう「骨吸収」が起こります。われわれとしては、できるだけ可動域を確保しつつも摩耗は避けたいわけです。

東京医療センター 藤田 貴也 先生Q. なるほど。可動域の確保と摩耗の両立は難しいのですね。

A. ですから各社人工関節メーカーが、ポリエチレンの性能をよくしようと努力されている。まさにこれが、人工関節の進歩ですね。ポリエチレンにガンマ線を照射させて、より強固なものにする技術が開発されたりしています。ポリエチレンを使わないという発想もありますが、壊れやすさとか合併症を考えた場合、骨頭がセラミックか金属、受け手となる臼蓋側のカップがポリエチレンという組み合わせが現時点では安心な選択ではないかと思います。

Q. それだけにポリエチレンの進化が期待されるのですね。

A. 最近では、ポリエチレンの表面に水分を保持させることで、摩耗を抑える技術Aquala(アクアラ)が開発されましたね。もし摩耗しても、先ほど説明した「骨吸収」を防ぐ可能性があることが動物実験で確認されていますので、優れた技術だと思います。

Q. ところで、若年層の疾病の場合で、手術をしなくて済むケースもあるのでしょうか?

A. 人工関節手術は、関節面の隙間がほぼ消滅してから行うものですので、そうなる前には、運動療法や、慢性疼痛(とうつう)の治療薬の服用などで保存療法を試みたり、人工関節を入れる前の手段として臼蓋の荷重条件を変えるための骨切り術を行うことはあります。根治的な治療にはならず、人工関節手術までの時間を延ばす治療となる場合がありますので30代、40代前半の方ですとそのような段階を踏むこともありますが、その方その方の人生観やライフスタイルによって、相談しながら選択していくということになります。

東京医療センター 藤田 貴也 先生Q. ありがとうございました。最後に、特に記憶に残っている患者さんとのエピソードはありますか?

A. 1年ほど前、40代の若い女性に、両側同時に人工股関節手術を行いました。今ではすっかり社会復帰されて、痛みなく普通に歩けるということで、「人生変わった」とおっしゃいました。仕事も家庭もあるからと、長らく手術を躊躇されていたんですけれども、「本当にやってよかった」と。人工股関節手術は、人生を前向きに生きるための手術とぜひとらえていただければと思います。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

藤田 貴也 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2013.6.6

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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