先生があなたに伝えたいこと / 【松山 大輔】ご高齢の方は、骨粗しょう症性椎体骨折を防ぐために、早期に骨粗しょう症の診断・治療を受けることが重要です。

先生があなたに伝えたいこと

【松山 大輔】ご高齢の方は、骨粗しょう症性椎体骨折を防ぐために、早期に骨粗しょう症の診断・治療を受けることが重要です。

秦野赤十字病院 松山 大輔先生

秦野赤十字病院
まつやま だいすけ
松山 大輔 先生
専門:脊椎脊髄

松山先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 大学時代ラグビーをしていた経験から、東海大学ラグビー部のチームドクターをつとめています。選手のケアやトレーニング法など最新のスポーツ医学に関心を持っています。また、選手に対して説得力のあるドクターでありたいので、自分自身もトレーニングに励み、体づくりをしています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 休日はできるだけ仕事を忘れ、家族との時間を大切にしています。娘1人と愛犬2匹と一緒に散歩を楽しむなど、ゆったりと過ごしています。

先生からのメッセージ

ご高齢の方は、骨粗しょう症性椎体骨折を防ぐために、早期に骨粗しょう症の診断・治療を受けることが重要です。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 国内で約1,000万人以上の方が患っているといわれる骨粗しょう症について教えてください。

A. 骨粗しょう症とは、簡単にいうと骨が弱っていく状態を指します。病気によって生じる場合もありますが、基本的には加齢に伴って骨がもろくなっていくことで起こります。程度の差はあるものの、私は60歳以上の方は大半が骨粗しょう症があると認識しています。現在は医学の進歩によって、薬で治療することができ、骨の強度を維持するための運動療法や食事療法なども確立されています。

Q. 骨粗しょう症に症状はありますか?

A. 骨粗しょう症そのものの症状は、ほぼありません。骨が極度にもろくなっていても普通に生活ができるため、骨折してから骨粗しょう症があることが判明するケースが多くあります。当院は急性期病院なので、高齢の方が転倒によって大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)や椎体(ついたい:背骨の一部)、手首などを骨折され、救急車で運ばれてくるケースが多いです。そうなる前に骨粗しょう症の診断と治療をし、骨折を防ぐことが重要だと考えています。

Q. 先生が専門とされている脊椎における骨折について教えてください。

A. 骨粗しょう症性椎体骨折といって、以前は圧迫骨折と呼ばれていたものです。骨粗しょう症によって骨がもろくなっていることで、くしゃみや咳ばらいのほか、しりもちをついたり、重いものを持ったりするだけで骨が圧迫されてつぶれ、椎体の骨折が起こります。

圧迫骨折(椎体骨折)

Q. どのように治療するのですか?

A. 症状が軽度の場合は、痛み止め薬を服用し、コルセットを装着して骨の変形が進行しないようにします。時間の経過とともに骨が固まってくる場合は、それに伴って痛みも取れてくるので、そのまま日常生活に復帰できます。しかし、2~3週間経過しても痛みが取れない、あるいは身体を起こすことができないといった重度の場合は、手術が必要になることがあります。
背骨の手術は、十数年前までは身体への負担が非常に大きかったので、骨粗しょう症性椎体骨折ではあまり手術治療が行われず、骨が固まるまで4~6週間ほどベッドで安静にしていることもありました。そうすると足腰を使わない期間が長くなり、筋力が衰え、骨が固まった頃にはすでに筋肉がなく、最終的に寝たきりになってしまう方もおられました。しかし、低侵襲な手術(身体にかかる負担の少ない手術)が開発されたことで、2011年ごろからは骨粗しょう症性椎体骨折でも手術治療が選択されるようになりました。
骨折をしてから骨が自然に固まるまで、どの程度の期間、経過観察するかは、医師の間でも議論されるテーマではありますが、ご高齢の方こそ早めに手術治療介入することが、寝たきり予防につながる事が報告されています。

コルセットの例

Q. 身体にかかる負担の少ない手術とは、どのようなものですか?

A. 骨折した椎体内に骨セメントを注入するBKP(Balloon Kypoplasty:経皮的椎体形成術)で、2011年から国内で保険適応になった手術法です。背中を2カ所、5mm程度皮膚切開をして、椎体の中に管を通して風船のような器械を入れて膨らませます。つぶれた椎体が元の形に戻れば、風船を抜いて骨セメントを注入します。骨セメントはアクリル樹脂でできた粘度のある液体で、椎体に注入すると30分程度で固まります。通常、骨折した骨は数カ月の経過で自然に固まっていきますが、この術式であれば30分程度で一気に固めることができます。短時間の手術で骨の矯正もできるため、全身麻酔が可能な心肺機能があれば、100歳前後の患者さんでも有効だと考えています。

BKP(経皮的椎体形成術)

BKP(経皮的椎体形成術)

Q. この手術のリスクはありますか?

A. セメント漏出といって、骨セメントを詰め込む際に椎体の外側に漏れ出てしまうことがあります。その際、血管の中に骨セメントが混ざってしまうと、心臓や肺などの臓器に骨セメントが詰まる危険性があります。こうした万一のリスクを回避するために、この術式は脊椎外科指導医の資格を有し、BKP実施のライセンスを保有した者しか行ってはいけないという決まりがあります。

Q. では、どこの病院でも受けられる手術ではないのですね?

A. 神奈川県秦野市内でいうと、当院でしか受けられないようです。ただし、骨折のダメージが大きい場合や、脊髄神経にダメージがある場合、背骨(脊椎)の変形が強い場合など、BKPでは対応不能なケースもあり、その場合には脊椎固定手術手術や除圧術など、体に負担がかかる手術が必要となります。

秦野赤十字病院 松山 大輔先生Q. BKPは進歩しているのですか?

A. もう一段階進歩した手技として、VBS(Vertebral Body Stenting:骨粗鬆症性骨折体ステント留置術)があります。BKPと同様につぶれた椎体の中を風船で膨らませた後に、ステントという金網ですきまを確保し、そこに骨セメントを詰めて補強する術式です。BKPの場合は、骨の中に骨セメントが自然に広がるだけなのですが、VBSの場合はステントで固定した内側にセメントを詰めるので均一に詰めることができ、外側に漏れにくいというメリットがあります。

Q. BKPとVBSはどのように使い分けられているのですか?

A. 現段階では、適応は明確に限定されていません。基本的に、椎体の損傷が著しい状態で骨セメントを詰めると漏れる可能性が高くなりますが、ステントで固定するVBSだと漏れがなく安全に行えます。そのため、当院ではVBSを中心に行っています。ただ、すべてVBSで行えばよいというものではなく、椎体のつぶれ方によっては、ステントを入れると骨がさらに損傷してしまうケースもあるため、症例に合わせて使い分けています。

Q. BKPやVBSなどの椎体形成術を受けられた患者さんの反応はいかがですか?

A. 術前に抱えていた強い痛みがなくなる方が多く、寝たきりだった方も座れるように、また歩けるようになられ、喜ばれています。もちろん、骨が固まっても筋肉の痛みがすぐに取れるとは限らず、時間がかかることもあります。しかし、日常生活に復帰できるというのは、この手術の最大の魅力だと思います。
現在、高齢社会で骨折の患者さんが増えており、今後も増加が予想されます。その中で、金属を使って骨を固定する手術とは違って、身体への負担が少なく医療コストも低い、この手術法には大きなメリットがあると思います。

Q. 骨折が疑われる場合は、やはり大きな病院を受診するほうがよいですか?

A. まずは、地域のクリニックを受診していただきたいです。当院の場合は基本的に、そうした開業医の先生から紹介を受けて診察しています。まずはかかりつけ医の評価を受け、症例によっては大きな病院への紹介を受けるという流れが患者さんに求められています。

Q. そちらの病院は二次救急医療施設に指定されていますが、どのようなことに取り組まれていますか?

A. 現在、骨折リエゾンサービス(FLS)といって、医師をはじめ、看護師や薬剤師、栄養士、理学療法士や社会福祉の相談窓口など、さまざまな職種が連携して骨粗しょう症の治療を進め、骨折を防ぐ取り組みが世界的に行われています。当院でも、そうした骨折予防のための組織を院内で編成し、2022年4月から運用を始めています。というのも、当院では骨折の患者さんが非常に多く、毎日のように骨折治療を行う中、手術して治った方がまた数カ月後に別の部位を骨折して入院されるケースが少なくありません。そのため、患者さんが骨折してから骨粗しょう症の治療をするだけではなく、骨折を防ぐためのケアにも注力しなければなりません。
こうした取り組みには地域連携が不可欠なため、開業医の先生方や回復期病院の先生にも骨粗しょう症の現状について周知してきました。まずは市内で連携し、ゆくゆくは行政や医師会と提携して、骨粗しょう症検診を積極的に行っていきたい。早期に治療ができれば、骨折の手術をせずにすむ方がもっと増えるのではないかと思います。

Q. そもそも骨粗しょう症にならないためには、どのようなことに気をつければよいですか?

ウォーキングのイラストA. 食事と運動が大原則となります。骨をつくるビタミンやカルシウムが摂取できる食事をし、若い時期から運動習慣を身につけ、骨と筋肉を作ることが重要です。骨粗しょう症の兆候がみられる方には、薬を服用することも大切です。
我々が所属している日本整形外科学会では、幼少期から運動習慣が身についていないと丈夫な骨を維持するのは難しく、20歳から運動を始めても遅いともいわれています。そこで今、骨辺に豊と書く「體(たい)」の字を使って、「體育(たいいく)」と掲げ、骨を豊かに育てる啓蒙活動を行っています。幼少期からそうした意識を持ってもらうことで、40~50年後の骨粗しょう症の患者さんを一人でも減らしたいと考えています。

秦野赤十字病院 松山 大輔先生Q. ありがとうございました。では最後に、先生が整形外科医を志された理由を教えてください。

A. 実家が療養型の診療所を経営していたことも影響していますが、テレビで見た「国境なき医師団」に憧れたことが原点になっています。医療過疎地や紛争・災害地域に入って、人の健康を守るというのが子ども心にカッコいいなと思いました。医学を専攻して研修医になった際、将来設計を考えるうえで「国境なき医師団」の説明会に参加すると、限られた医療資源の中で特に整形外科の手技技術が求められるという話を聞き、整形外科医になりました。
実際に学生時代に入った手術でも、脚を動かせなかった椎間板ヘルニアの患者さんが、術後に脚が動かせるようになるのを目の当たりにし、整形外科への関心はより高まりました。そして、まずは経験を重ねて手技技術を高めようと奮闘してきました。当院は国内外の災害医療救護を重視する日本赤十字社の理念に基づいた病院であるため、7年前に当院へ赴任してからは、普段は整形外科医、脊椎外科医としての業務に集中しつつ、災害発生時には医療救護班として活動できるように、平時から日々訓練を行っています。子どもの頃に描いていた理想の医師像に近づいてきた事を実感しており、忙しいながらも非常に充実した毎日を過ごしています。

リモート取材日:2023.2.17

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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