先生があなたに伝えたいこと / 【篠原 司】治療や手術をこわがらずにしていただくために、ていねいな診察を重ねながら患者さんとの信頼関係を築くことを大切にしています。

先生があなたに伝えたいこと

【篠原 司】治療や手術をこわがらずにしていただくために、ていねいな診察を重ねながら患者さんとの信頼関係を築くことを大切にしています。

医療法人宏和会 あさい病院 篠原 司 先生

医療法人宏和会 あさい病院
しのはら つかさ
篠原 司 先生
専門:股関節膝関節

篠原先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 コロナで学会に行けなくなり、先生方と直接交流することができない状態が続いていますが、おさまったら対面での交流を復活させたいです。

2.休日には何をして過ごしますか?
 あまり休みは取れていませんが(苦笑)、家でテレビを観たり、読書をしたりして過ごすことが多いです。

先生からのメッセージ

治療や手術をこわがらずにしていただくために、ていねいな診察を重ねながら患者さんとの信頼関係を築くことを大切にしています。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

股関節の仕組みと疾患

Q. まず始めに、股関節の構造について教えてください。

A. 股関節は骨盤側にある寛骨臼(かんこつきゅう)という丼鉢(どんぶりばち)のような骨に、大腿骨の先端にある大腿骨頭(だいたいこっとう)という丸い骨がはまり込む球関節と呼ばれる構造、表面を軟骨が覆い、滑らかに動くようになっています。周囲は強靭な靭帯と筋肉によって守られ、可動域(関節を動かすことができる角度)が広いことが特長です。

股関節の構造

股関節の周囲の靭帯

Q. 股関節の代表的な疾患について教えてください。

A. 最も多いのは、年齢とともに軟骨がすり減って関節が変形し、痛みを感じるようになる変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)をベースにちょっとしたストレスで急に骨が壊れていく急速破壊型股関節症(きゅうそくはかいがたこかんせつしょう)という疾患もあります。ほかには、大腿骨頭に血流が行き届かなくなり、骨の組織が壊死する大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)や、関節が炎症を起こして関節破壊が起こる関節リウマチなどがあります。

変形性股関節症

Q. それぞれの疾患の原因や患者さんの傾向についても教えてください。

A. まず、変形性股関節症ですが、日本人には元々大腿骨への寛骨臼の被り(かぶり)が浅い寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)の方が多く、被りが浅いと大腿骨頭を包み込むことができず、寛骨臼の一部に体重が集中して軟骨に負荷がかかることが原因の一つです。寛骨臼形成不全は女性に多く、50代以降に変形性股関節症の症状が出始め、70歳過ぎに変形が進行して痛みを訴えるようになる方が多いです。重労働に従事している方や過体重の男性で、加齢とともに変形性股関節症の症状があらわれる方もいます。大腿骨頭壊死症はステロイド治療薬を使っている方や過度のアルコール摂取をされる方に多く見られます。

正常 寛骨臼形成不全

Q. 診断はどのように行われるのでしょうか?

A. まずはレントゲン撮影を行って軟骨の変性や劣化があるかを診ます。手術を考える場合、骨が脆い(もろい)と合併症の危険性も高くなるため、65歳以上の女性には骨密度検査もあわせて行います。大腿骨頭壊死症が疑われる場合、MRIの撮影も行います。

Q. 治療法について教えてください。

水中ウォーキングA. まずは痛み止めを処方し、運動療法などの保存療法で様子を見ます。運動は通常のウォーキングもよいのですが、お勧めしたいのは負荷をかけずに股関節周りの筋肉を鍛えられる水中ウォーキングです。股関節の可動域を広げるため、痛みのない範囲でストレッチも指導しています。
体重が重いと股関節への負担が増えますから、体重は増やさないようにして階段ではなくエレベーターを使い、できれば和式ではなくて様式の生活にするなど、可能な限り生活の見直しも行っていただきます。

ストレッチの例

横になって脚を上げ下げする運動

脚を開閉する運動

Q. 保存療法で効果が見られない場合には、どのような治療法がありますか?

A. この地域は高齢の患者さんが多いので、傷んだ箇所を人工股関節に置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)になることが多いです。
近年は人工股関節の耐用年数が延びて入れ替えずに生涯を終える患者さんもいますが、それでも長い余命が予想されたり、例えば40歳未満で軟骨が残っている場合には、自身の骨を切って形を整えて固定する寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ)という治療法もあります。

後述するセメントレスタイプの人工股関節全置換術(THA)の例

後述するセメントレスタイプの人工股関節全置換術(THA)の例

寛骨臼回転骨切り術

Q. 人工股関節にするメリットと、手術の決断に至るプロセスについて教えてください。

A. 人工股関節にする一番のメリットは、痛みが和らいで可動域の拡大が期待できることです。患者さんがどの段階で手術を決断すべきかは難しいのですが、どういった痛みがあり、靴下が履きにくいなどの日常生活で困っていることについて診察を通じてコミュニケーションを丁重に重ねていくようにしています。そのうえで、薬を使っても痛みがおさまらない場合には、手術に踏み切ってはどうかと提案させていただいています。

Q. 人工股関節にも色々な種類があるのでしょうか?

A. 人工股関節には、セメントを使用して骨に固定するセメントタイプと、セメントを使わずに固定するセメントレスタイプがあり、当院ではセメントレスタイプをメインに使用し、一部の症例でのみセメントタイプを使っています。術式には股関節全体を人工物に置き換える人工股関節全置換術(じんこうこかんせつぜんちかんじゅつ:THA)と、大腿骨側だけを取り替える人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ:BHA)とがあります。変形性股関節症の場合は原則としてTHA、高齢の方に多い大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)の場合にはBHAが適応となります。

セメントタイプの人工股関節全置換術(THA)の例

セメントタイプの人工股関節全置換術(THA)の例

人工骨頭置換術(BHA)の例

人工骨頭置換術(BHA)の例

Q. 人工股関節そのものは以前に比べて進歩していますか?

A. 様々な形状の人工股関節が開発され、患者さんに適したものを選べるようになりました。機能面では、人工股関節で軟骨の役目を果たすポリエチレンカップやポリエチレンライナーに使用されている素材が著しく進歩しました。ビタミンEを添加することで人工股関節の寿命に影響するポリエチレン部材の摩耗を抑えられるようになり、耐用年数が向上したことに加え、ポリエチレン自体の厚みを薄くすることにもつながり、より大きな骨頭ボールを設置できるようになったことから安定性が増して可動域が広くなったのです。いまでは、術後の脱臼もほとんど起こらなくなりました。

骨頭が小さい場合 骨頭が大きい場合

Q. 手術の手技についてはどうですか?

A. お尻の方から筋肉を切りながら股関節に到達する従来の後方アプローチ法に対して、近年は股関節の前や横から侵入して患部に到達する前方アプローチ法や前側方(ぜんそくほう)アプローチ法が普及し、筋肉を切る量を極力少なくする、あるいは筋肉を切らずに温存することで関節の安定性を保つことができるようになりました。術前計画では、3Dテンプレートシステムというコンピューターを利用した計測ソフトを使って、患者さんに適したサイズや形状のインプラントを選び、正確に手術が行えるようになってきています。

アプローチ法

膝関節の仕組みと疾患

Q. 次に膝関節の構造についても教えてください。

A. 膝関節は大腿骨と脛骨(けいこつ)と膝蓋骨(しつがいこつ)から成る蝶番(ちょうばん)関節で、曲げ伸ばしだけでなく、ひねるといった複雑な動きをするために関節が不安定になりやすく、周囲の4つの強靭な靭帯が関節の動きを安定化させています。

膝関節の構造

膝関節は、ひねりながら屈曲するという複雑な動きをする

Q. 膝関節の代表的な疾患について教えてください。

A. 患者さんで最も多いのは、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。女性に多く、加齢とともにO脚が進み、膝の内側に負荷が集中することで関節の周りを覆う軟骨が壊れていきます。症状としては、歩き始めや立ち上がり時に痛みを感じるようになります。ほかには骨壊死(こつえし)や関節リウマチなどがあります。

変形性膝関節症

O脚の図

Q. その治療法について教えてください。

A. まずは保存療法で様子を見ます。例えば、運動療法としては、椅子に座ったまま、あるいは寝たまま大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を鍛える方法を指導しています。いまは痛み止めの種類が増え、体重を増やさないようにして運動療法を行うことで症状の進行を抑えることも期待できます。

運動療法の例

Q. どのような場合に手術になりますか?

A. 3~6ヵ月程度保存療法を続け、必要に応じて関節内へのヒアルロン注射を打っても症状が改善しない場合、傷んだ部分を人工膝関節に置き換える人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ)を提案させていただきます。若い方で軟骨が残っている場合には、自分の関節を温存できる高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)という治療法もあります。

後述する人工膝関節全置換術(TKA)の例

後述する人工膝関節全置換術(TKA)の例

高位脛骨骨切り術

Q. 人工膝関節にもいろいろな種類があるのでしょうか?

A. 術式には、膝関節の全てを人工物に置き換える人工膝関節全置換術(じんこうひざかんせつぜんちかんじゅつ:TKA)と、膝関節の内側か外側の片側を人工物に置き換える人工膝関節単顆置換術(じんこうひざかんせつたんかちかんじゅつ:UKA)があります。また、人工膝関節には、前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)とも切除してその部分の機能を人工関節で代用するPS型と呼ばれるタイプや、後十字靭帯を温存するCR型と呼ばれるタイプ、どちらの靭帯も温存するタイプなど様々なインプラントが開発され、症状によって使い分けています。

人工膝関節単顆置換術(UKA)の例

人工膝関節単顆置換術(UKA)の例

PS型とCR型の人工膝関節

Q. 人工膝関節の手術も以前に比べて進歩していますか?

A. 手術中に靭帯のバランスをこまかく調整し、関節の安定性を確保し、痛みを軽減できるようになりました。

Q. 手術で起こりうる合併症と、その対策について教えてください。

A. 人工関節の手術特有の合併症として、手術中の感染や、術後の血栓症が挙げられます。そのため、当院では手術はクリーンルームで、術者は宇宙服のようなものを着用し、手術時間をできるだけ短くするようにしています。また、術後は血液をサラサラにする薬やフットポンプを使い、手術翌日から動いていただくことで血栓を予防しています。股関節の手術では術後に脱臼が起こることがありましたが、近年は術式の工夫によって改善されています。

感染予防対策(クリーンルームで特殊な手術着を着用して行う)

フットポンプ

Q. 手術後のリハビリについて教えてください。

A. 手術翌日から歩行訓練を開始し、膝の手術の場合は、曲げ伸ばしの練習やCPM(持続的関節他動訓練器)という器械を使った可動域訓練も行います。高齢の患者さんの場合には不安なく日常生活に戻れるように杖を使った歩行訓練や、可能であれば杖なしで歩く練習も行い、3~4週間程度での退院を目指します。

Q. 先生は、日々どのような想いで患者さんと接していらっしゃいますか?

A. 手術は患者さんにとって非常に怖いものだと思いますので、まずは診察を重ねて信頼関係を築くことが大切だと考えています。そのうえで、患者さんにとって手術した方がより良い生活を送れると思えば、手術をできる限り良いものにしてあげたい、手術を通じて一緒に乗り越えていこうという想いで接しています。

Q. 最後に、先生が整形外科医を志されたきっかけがありましたら教えてください。

A. 父が整形外科医ということもありましたが、研修中に様々な科を回るうちに、手術で患者さんが元気になっていく姿を見られる整形外科に惹かれました。

リモート取材日:2021.10.27

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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