先生があなたに伝えたいこと / 【横山 徳一】人工股関節、人工膝関節ともに、新しい手技や考え方を取り入れ、患者さんに満足していただける手術を目指します。

先生があなたに伝えたいこと

【横山 徳一】人工股関節、人工膝関節ともに、新しい手技や考え方を取り入れ、患者さんに満足していただける手術を目指します。

医療法人社団 大室整形外科 脊椎・関節クリニック 横山 徳一先生

医療法人社団 大室整形外科 脊椎・関節クリニック
よこやま のりかず
横山 徳一 先生
専門:股関節膝関節

※第1回インタビューについてはこちら

※第2回インタビューについてはこちら

横山先生の一面

前回のインタビュー以降、プライベートや仕事において変化したことは何ですか?
 4人の子どものうち上の2人は成人し、家族で遊ぶ機会も減ったので、仕事の割合が増えてきています。年齢的にも、自分が先輩方から教わってきた治療の考え方や手術手技などを次の世代につないでいく使命を感じています。そのため、手術の見学受け入れや指導などを積極的に行っています。

先生からのメッセージ

人工股関節、人工膝関節ともに、新しい手技や考え方を取り入れ、患者さんに満足していただける手術を目指します。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 人工股関節について教えてください。

A. 金属などでできた人工股関節には、セメントを使って骨に固着させるタイプと、セメントなしで固着できるタイプの2種類があります。黎明期は、セメントタイプの人工股関節が広く使われていましたが、セメントレスタイプが開発されて以降、こちらを選択するケースが多くみられるようになりました。一時期はセメントタイプがかなり減少しましたが、患者さんの高齢化に伴って、またセメントタイプが使われる場面も増えてきました。

人工股関節置換術の例

人工股関節置換術の例

Q. セメントタイプが使われる理由を教えてください。

医療法人社団 大室整形外科 脊椎・関節クリニック 横山 徳一先生A. 人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)を受ける患者さんは高齢者も増えてきており、その多くは骨粗しょう症によって骨がもろくなっています。スカスカになった骨に人工股関節を設置しても、骨と金属がぴったりと固着するのが難しいことがあります。そのため、セメントを入れてしっかりと固める方法も選べます。そうしたことから近年、超高齢者の骨折治療などにはセメントの使用を推奨するというガイドラインが発表されました。
私の場合は、研修医時代からずっとセメントタイプの人工股関節も使い続けています。それは、骨の形状は人によって異なる中、セメントタイプであればどのような骨にでも安全にしっかりと固着できるという理由もあるからです。

Q. 人工股関節置換術の手技の面では、どのようなことを重視されていますか?

A. 手術の際に、筋肉や靱帯(じんたい)をできるだけ温存することです。そもそも股関節は人体の奥深くに位置しているため、そこにアプローチするためには、その間にある筋肉や靱帯を切らなければなりませんでした。筋肉や靱帯を切ると、筋肉が痩せてきたり、痛みが残ったりします。そのため今は、筋肉や靱帯を損傷することなく股関節に到達するさまざまなアプローチ法が生み出されています。
中でも私は、大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)の前側から進入する前方アプローチ法を取り入れています。そもそも筋肉は神経に支配されており、筋肉の部位によって司る神経が分かれています。このアプローチ法では、神経の支配を尊重して筋肉の間を分け入って股関節に到達します。だから筋肉が損傷せず、その分回復も早くなります。

前方アプローチ法 後方アプローチ法

Q. そうなのですね。ほかにも手術において工夫されていることはありますか?

A. 手術をより安全かつ正確にするために、レッグポジショナーという器械を取り入れています。手術中に患者さんの脚を固定する台です。通常は、執刀医とは別の医師が患者さんの脚を持った状態で手術を行うのですが、レッグポジショナーがあれば執刀医一人で手術をすることができます。また、脚の向きなども自由に動かせて、ぐらつくことなく固定できるため、より正確な手術を安全に行うことができます。また、手術の傷がきれいに治るように、ビキニ切開という下着に隠れる8cm程度の横方向の切開をほとんどの症例で行っています。

Q. では続いて、人工膝関節についても教えてください。

A. 人工膝関節には、全人工膝関節置換術(ぜんじんこうひざかんせつちかんじゅつ:TKA)単顆人工膝関節置換術(たんかじんこうひざかんせつちかんじゅつ:UKA)の2種類があります。膝関節には内側と外側があり、どの程度の範囲まで傷んでいるかに応じて、内側と外側の両方を丸ごと人工関節にするか、片側だけを人工関節にするかを選択します。当然、片側だけの単顆人工膝関節置換術のほうが侵襲(しんしゅう:身体へのダメージ)が小さいため、回復が早くなります。膝関節の内側だけが傷んでいて、膝関節全体のバランスが安定しているという方は、単顆人工膝関節置換術の適応になることが多いです。

全人工膝関節置換術

全人工膝関節置換術

単顆人工膝関節置換術

単顆人工膝関節置換術

Q. 膝関節の手術においては、どのような工夫がありますか?

A. 人工股関節置換術と同様、できるだけ筋肉を損傷しないことに加え、自然なアライメント(形状とバランス)の調整を行っています。通常、人工膝関節置換術は大腿骨と脛骨(けいこつ:すねの骨)を床面に対して垂直にし、それに対して関節表面を水平に切って人工膝関節を設置します。しかし実際の膝関節は、関節の表面に数度の傾きがあります。その傾きは人によって異なるため、その角度に合わせて人工膝関節を設置するようにしています。これはキネマティックアライメント法と呼ばれており、患者さんごとに異なるその人の膝関節に合ったアライメントを実現するため、術後の違和感が少ないといわれています。
例えば歯でいうと、虫歯治療では虫歯の部分だけを削って、もとの歯に近い形状になるように金属を被せます。それと同じ発想で、表面の傷んだ部分だけを切除して、金属に表面置換するようなイメージです。人それぞれの靱帯などのバランスはそのままにします。医師によってさまざまな考え方があるため、キネマティックアライメント法はまだ一般的ではありません。しかし私は、患者さんそれぞれに異なる膝関節本来の動きが再現できる手技だと考えており、2020年から全例で取り入れています。実際に患者さんの術後の満足度も高く、「あぐらがかけるようになった」「膝がよく曲がるようになった」というお声をいただくこともあります。

キネマティックアライメント法

キネマティックアライメント法

Q. 患者さんの術後の満足度を重視して手術されているのですね?

A. 人工膝関節は今、製造国や素材の違いなど、いろいろな種類のものが開発されています。しかし、おそらく患者さんにとってはどんな人工膝関節を用いるかよりも、治療によって自分の膝がどれだけスムーズに動くかが一番重要だと思います。そのため、患者さんごとに合った手術をすることが、満足につながると考えています。また当院では、手術のやり方にこだわるだけではなく、術後の回復にも注力し、ERAS(術後回復能力強化プログラム)を取り入れています。

医療法人社団 大室整形外科 脊椎・関節クリニック 横山 徳一先生Q. ERASとは、どのようなプログラムですか?

A. 「Enhanced Recovery After Surgery:術後回復の強化」の略で、2001年ごろから欧州で提唱されはじめ、注目を集めている包括的な術後管理の手法です。身体の組織をできるだけ温存する手術によって術後の痛みを軽減し、早期にリハビリを行って日常生活への復帰を促します。
例えば、日本で人工股関節置換術を行う場合、2~3週間程度の入院をするのが一般的です。しかし、アメリカだと在院日数はわずか2日間以下です。手術の内容や使う人工股関節にほとんど差がないにもかかわらず、なぜこれだけ治療期間に差があるのかというと、術後回復のプログラムが違うのです。そこで当院でも、早期回復を促すプログラムを取り入れ、入院期間を1週間程度に設定しています。

Q. 具体的にどのような取り組みをしているのですか?

A. まずは患者さんの術後の不安を解消するために、手術の内容や回復への流れなどを患者さんにしっかりと認識していただきます。通常、日本では術後の患者さんは、24時間中、1時間程度リハビリをし、残りの23時間はベッドで安静にしています。それでは早期回復につながりにくいため、注意すべき動作をお伝えしたうえで、どのように身体を動かしていくかを指導し、積極的に動いていただきます。筋肉を傷めない手術をしていることから、動いたことによって脱臼などの合併症が起こるリスクも低いこともお伝えします。とはいえ、術後の痛みがあると動きたくても動けないため、麻酔科の医師とも連携して、できるだけ術後の痛みを抑え、点滴や排尿の管などもできるだけ早く外すようにしています。
昔は、高齢の患者さんが手術をされると、長期的に入院されるのが一般的でした。しかし今は、QOL(生活の質)が求められる時代なので、患者さん自身が早期の退院が望まれています。

Q. 患者さんが求めるものも変わってきているということですね。

A. そうですね。ご高齢の方のライフスタイルが昔と比べて、大きく変わってきています。昔は年をとると自宅でのんびり過ごすのが一般的でしたが、今はスポーツや旅行を積極的に楽しまれる方が多くなりました。情報社会になって、SNSでいろいろなことに取り組む人がいることが可視化され、「自分もこれをやってみたい」という活発な方が増えています。そうした患者さんが、術後も人生を前向きに楽しめるよう、やりたいことをサポートできる治療を提供したいと思っています。

Q. 先生はこれまでのインタビューで、チーム医療の重要性を強く訴えられていますが、その重要性はますます高まっているのでしょうか?

A. 患者さんは、受付をはじめとする病院のスタッフ全員が医療のプロだと認識しておられます。それにお応えし、患者さんに安心していただくためにも、看護師や麻酔科医、理学療法士など、さまざまな職種のプロが一丸となるチーム医療の重要性は高まっていると思います。それぞれにプロ意識があれば、手術においても全体の流れを見越して動くことができ、効率性が高まります。当院では、朝から人工関節の手術を5件行っても、夕方にはすべてが完了します。個々の患者さんにとっては手術時間が短くてすみ、スタッフは定時で仕事を終えることができ、双方にとって理想的だと思います。

医療法人社団 大室整形外科 脊椎・関節クリニック 横山 徳一先生Q. ありがとうございました。では、先生が治療において大切にされていることを教えてください。

A. 「患者さんがもし自分の家族だったら」という当院の治療への考え方を、自分自身も基本としています。「家族に受けさせたくない手術はしない」ということさえ肝に銘じていれば、万一のことが起こってもベストを尽くして、回復につなげることができます。
また、チーム医療においては、全員が同じ方向を向き、同じ情熱を持つことを大切にしています。それによって効率も上がり、手術成績も良くなります。スタッフ間でコミュニケーションをはかり、今後ますます連携を深めていきたいです。

Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。

横山 徳一 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2023.2.20

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

先生の一覧へ戻る

病院検索をする

ページトップへ戻る

先生があなたに伝えたいこと

股関節股関節

膝関節膝関節

肩関節肩関節

肘関節肘関節

足関節足関節

手の外科手の外科

脊椎脊椎

病院検索 あなたの街の病院を検索!

先生があなたに伝えたいこと 動画によるメッセージも配信中!