先生があなたに伝えたいこと / 【髙﨑 実】手や指、肘の痛みが続く方は、早期に専門医へ相談することを勧めます。もし末梢神経障害なら、治療が遅れると改善が難しくなることもあります。

先生があなたに伝えたいこと

【髙﨑 実】手や指、肘の痛みが続く方は、早期に専門医へ相談することを勧めます。もし末梢神経障害なら、治療が遅れると改善が難しくなることもあります。

独立行政法人 労働者健康安全機構 九州労災病院(リウマチ整形外科部長) 髙﨑 実 先生

独立行政法人 労働者健康安全機構 九州労災病院(リウマチ整形外科部長)
たかさき みのる
髙﨑 実 先生
専門:手外科・肘関節外科

髙﨑先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 新型コロナウイルスの感染状況です。感染者が増えると外出に制限がかかるので、患者さんが受診を控えられたり、学会などで同業者に会って情報共有したりする機会も減るので残念です。早く収束して欲しいです。

2.休日には何をして過ごしますか?
 近所への買い物や外食など、できるだけ家族と過ごすようにしています。運動不足気味なので、サイクリングに行くことも。遠方まで行けば人も少なく、マスクを外して走行できるので気持ち良いです。

先生からのメッセージ

手や指、肘の痛みが続く方は、早期に専門医へ相談することを勧めます。もし末梢神経障害なら、治療が遅れると改善が難しくなることもあります。

このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。

Q. 肘や手の関節の構造について教えてください。

A. 肘関節は、上腕骨(じょうわんこつ)という太くて長い骨と、手の親指側にある橈骨(とうこつ)、小指側にある尺骨(しゃっこつ)と呼ばれる前腕の2本の骨から構成されています。肘の曲げ伸ばしは主に、上腕骨と尺骨の間にある腕尺(わんしゃく)関節が担い、前腕をひねる(回す)動作は、上腕骨と橈骨から成る腕橈(わんとう)関節が担っています。
手関節は、橈骨と尺骨に加え、手首に手根骨(しゅこんこつ)という小さい骨が8個あります。そこから、中手骨(ちゅうしゅこつ)、基節骨(きせつこつ)、中節骨(ちゅうせつこつ)、末節骨(まっせつこつ)という細かい骨が組み合わさって、それぞれの指を構成しています。骨の連結部分がすべて動かせることで、手先を細かく動かすことができます。
特に手はたくさんの関節があり、それぞれ構造が異なるため、どの部分が損傷しているのかを細かく診断する必要があります。

肘の構造(正面図)

手の構造

Q. 肘や手に痛みを引き起こす疾患には、どのようなものがありますか?

A. 大きく分けて、関節自体の疾患と、関節以外の末梢神経障害などがあります。高齢化に伴って、今は変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)などの関節疾患が多いです。手の変形性関節症は、親指の付け根の関節(CM関節)や、人差し指から小指の第一関節(DIP関節)に多く、橈骨と尺骨の遠位端で形成される遠位橈尺関節(えんいとうしゃくかんせつ)におこることもあります。手の中でも特によく使う部分を中心に、軟骨がすり減っていき、動かすと痛みを感じます。
関節以外では、名前をよく耳にすると思いますが、指の付け根にある腱が圧迫されて炎症を起こす腱鞘炎(けんしょうえん)が多いです。曲がった指を戻すために力をかけると、腱の引っかかりが外れて指が跳ねるように伸びる、ばね現象という動きによって、痛みを感じることもあります。また、比較的若い方に多いのが、手首を伸ばす筋肉の付け根にある肘の腱が傷む、通称テニス肘と呼ばれる上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)です。

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)

一方、末梢神経障害においては、主に手のひら側の親指から中指が、しびれて痛みが出る手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)や、薬指と小指から前腕の小指側にかけてしびれて痛みが出る肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)が多くみられます。このほかにも、頻度の低い末梢神経障害もあります。また、手や肘が左右ともに腫れて痛むという症状で、患者さんは加齢によるものだと思っていましたが、診断すると関節リウマチだったというケースもあります。
こうした疾患のほかに、当院では骨折などの外傷を診察する機会も多いです。特に高齢の方は、骨粗しょう症によって、肘や手に脱臼を伴った、骨が粉砕する骨折のほか、何かの拍子に手をついた衝撃によって、手首の付近を骨折してしまう橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)も多くみられます。患者さん自身は骨折に気づかないまま、レントゲン検査によって骨折が判明するようなケースもあります。

橈骨遠位端骨折

独立行政法人 労働者健康安全機構 九州労災病院(リウマチ整形外科部長) 髙﨑 実 先生Q. これらの疾患は、日常生活においてどのような不自由がありますか?

A. 変形性関節症は、関節に炎症があって水が溜まるなどのケースを除くと、安静時は痛みがない場合が多いです。もともと手は、体重の負荷がかかる関節ではないため、動かしたときや負荷をかけたときにのみ痛みが出ることが多いようです。例えば、歯磨きや瓶のふたを開ける、ものを持つなどの動作です。基本的に女性に多くみられる疾患で、手が痛くて炊事や洗濯などの家事ができないというお話もよくお聞きします。
一方、肘の変形性関節症は、比較的男性に多くみられ、力仕事や野球経験のある方などが、肘の関節を酷使したことで軟骨がすり減り、痛みを引き起こしている場合があります。大まかにいうと、変形性関節症の半分程度は加齢に伴って発症し、残り半分は体質的なものが起因していると考えられています。
末梢神経障害の場合は、しびれが特徴的です。夜間のしびれや痛みによって、睡眠が妨げられることもあるようです。

Q. どのように診断するのですか?

A. 痛みの原因が関節にあるのか、それ以外かで診断方法が変わります。関節疾患の場合は、痛みの出方のほか、靭帯の不安定性を調べるストレステストなどで、傷めている場所を確認し、レントゲンで診断する場合が多いです。
関節以外の場合は、手や肘、頚椎(けいつい)などの神経圧迫によって手にしびれが出ている場合もあります。そのため、神経の診察をしてレントゲン検査を行うほか、神経連動速度検査という脳から筋肉などへの電気信号を伝えるスピードを測る検査や、痛みを誘発するテストなどを行うこともあります。また、神経がマヒしていると筋肉が瘦せていくため、そうした所見から手術を検討する場合もあります。詳細に診察しないと診断がつきにくいケースも多く、手の専門医であっても年間に数人しか診ないような、頻度の低い疾患もあります。

Q. 変形性関節症の治療法を教えてください。

A. 変形性関節症の治療は、除痛が目的となることが、ほとんどです。最初に、症状が出始めてからどれくらい経っているか、生活動作において何に困っているのかを確認します。日が浅い場合は、安静にしながら鎮痛剤や抗炎症剤の投薬、湿布、テーピングなどを行います。一方、慢性期で変形が明らかな場合は装具の作成を検討します。これらの保存的な治療を3カ月から半年間ほど行っても改善しない場合は、手術を検討します。上腕骨外側上顆炎の場合も同様です。
手を手術する場合は、特に親指の付け根や手のひらが多く、関節の代わりに腱などで制動する関節形成術を行うことがあります。特にCM関節は手術成績が良いです。また、痛みの出る関節をなくして一つの骨にする手術や、骨を切って力がかかる方向を変える手術を行うこともあります。変形の度合いや痛みの状況などをもとに、患者さんと話し合って治療法を決めていきます。

装具の例

Q. 抹消神経障害の場合は、どのような治療になりますか?

A. 神経機能を回復させる治療になります。軽度であれば、鎮痛剤やビタミンB製剤などのしびれを和らげる薬、神経障害性疼痛の薬などを用います。また、鎮痛剤を混ぜたステロイド剤を注射することで、神経の通り道が広がって消炎ができ、痛みが軽減される場合も多いです。ただし、神経の変性が進み、末梢神経のスピードを測る検査で反応しなくなるまでになると、改善が見込めない場合もあります。そうなる前に、神経の圧迫を解除する手術を行うことが大切です。肘だと神経の場所をずらしたり、手だとほかの腱で代替する手術を行ったりする場合もあります。

独立行政法人 労働者健康安全機構 九州労災病院(リウマチ整形外科部長) 髙﨑 実 先生Q. 外傷の場合は、どのような治療になりますか?

A. 肘に対しては、腕尺関節と腕橈関節の状態をよく診て、投薬などでの治療が困難な場合は、機能を再建するための手術を行います。手も含めた骨折の場合も、まずは手術をしないで治癒が可能かどうか検討します。折れた骨がずれている場合は、機能障害が起こるため、骨を整復して固定する手術が必要になります。ネジや針金、プレートなどを使って骨を固定する観血的整復固定術(かんけつてきせいふくこていじゅつ)です。また、折れてバラバラになってしまった関節を内視鏡を用いて、元に戻す手術を同時に行う場合もあります。肘の骨折で骨が粉砕しているケースだと、骨を人工物に置き換える人工肘関節置換術(じんこうひじかんせつちかんじゅつ)を行うこともあります。

Q. 上肢の人工関節置換術について教えてください。

A. 主に関節リウマチによる高度な関節の変形に適応になり、除痛効果の高い手術です。ただし、近年はリウマチの薬物治療が進歩したことで、変形が強い場合でも可能な限り関節を温存する手術を検討する傾向があります。しかし、それが困難な場合や、肘や手の見た目の変形を気にされる方は、人工関節置換術を選択されています。
人工肘関節置換術は、肘関節の傷んだ部分の骨を削って、人工物に置き換えて肘関節を再建する手術です。ただし肘関節は、上腕骨、尺骨とも、下肢の骨に比べて細かく、人工肘関節に体重をかけたり過度に重たいものを持ったりすると、骨折したり人工関節が破損する可能性があるので注意が必要です。また、10~15年で入れ換え(再置換)手術などが必要になることがあるため、若い方にはあまり推奨していません。

人工肘関節置換術の例

人工肘関節置換術の例

人工指関節置換術(じんこうゆびかんせつちかんじゅつ)は、主にリウマチなどによる第二関節やMP関節などの変形に適応となります。除痛と機能回復が期待できますが、指は細かい動作を行う関節なので、人工指関節の耐用年数は肘などに比べるとやや短めになり、数~10年程度で入れ換え(再置換)手術が必要になることもあります。人工指関節には金属やシリコンなど、さまざまな素材があります。金属製だと耐久性は高いですが、再置換手術が困難なため、指を酷使する人にはあえて10年程度での再置換を見越してシリコン製を選ぶなど、患者さんの生活習慣を考慮して素材を使い分けています。

人工指関節の例

現在、一部の施設では、手首の人工関節置換術も行われているようです。いずれにしても、再置換手術を何度も行うことは医師としては推奨できないので、人工関節置換術はほかに治療法がない場合の最終的な手段に近いと思います。

独立行政法人 労働者健康安全機構 九州労災病院(リウマチ整形外科部長) 髙﨑 実 先生Q. 手術後の流れについても教えてください。

A. 一般的に手や肘の手術後は、翌日から歩行も食事も可能なため、入院期間は数日から2週間程度です。部位や内容によっては、日帰りや1泊2日も可能です。リハビリは、単純な骨折であれば手術直後から行いますが、骨折の粉砕の程度や部位によっては一定期間の安静が必要な場合もあります。特に固定術を行った場合は、骨が安定するまでギプスなどで固定して動かさないこともあります。手や指の場合は、靱帯再建や腱のバランスを整える手術が多いため、スプリントというリハビリの装具を使ったり、制限を加えながらリハビリを行なったりすることが多いです。患者さんの社会背景も考慮しながら進めていきます。
術後に気をつけなければならないのは、手を下ろしたままにすることや、ギプスなどを必要以上に使用し続けるのを避けることです。むくみがひどくなったり、手指が固くなる拘縮(こうしゅく)の状態になる場合があるからです。そのため、術後の状態を管理しながら、理学療法士と連携して、可能な限り早期から手や肘を動かす練習や筋肉トレーニングを始めます。

Q. 先生が治療において、心がけていることは何ですか?

A. 手や指は関節や腱が多く、患者さんの状況もいろいろで、疾患も治療法の選択肢も多種多様にあります。そのため、手術をする場合は患者さんとよく話し合って、「手術して良かった」と思っていただけるように心がけています。

独立行政法人 労働者健康安全機構 九州労災病院(リウマチ整形外科部長) 髙﨑 実 先生Q. 先生が医師を志されたエピソードを教えてください。

A. 小学生の時に、母が膠原病(こうげんびょう)疾患で入院しました。親戚には医学に詳しい人が一人もおらず、母の病気についてしっかり理解できなかったことが、医学に関心を持ったきっかけです。こうした経緯から膠原病類縁疾患もある程度勉強し、現在は日本リウマチ学会専門医資格も保持しています。患者さんの生活の質の向上に貢献できる整形外科医の仕事に、やりがいを感じています。

Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。

髙﨑 実 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

リモート取材日:2021.11.18

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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