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人工股関節置換術の体験を手記に

二〇〇一年足接ぎの記 (一)手術前のお話です

二〇〇一年が明けて節分が過ぎた頃、ついに私は手術を受けようと決心した。

左変形性股関節症。これが私の病名だ。

「続 愉しき暦」

五年ほど前から右足のつけ根あたりにキリキリする痛みがおこった。それは一時治ったものの、昨年は左足にその痛みが再発した。外歩きを控える生活をしたが、次第に、歩くことも足を伸ばして寝ることも、左右に捻ることも辛くなった。太腿にきついこむら反りが起ったような痛さだった。

医者は、「太腿の後ろ側を十五センチほど切りますが、股関節の磨り減った部分を人工骨頭に取り換えるだけです。二時間ほど眠っている間にして上げますよ。あとはあなたがリハビリで頑張るだけです。約六週間の入院です」と、いとも簡単に言った。
それから私の足を見て、「こんなよれよれに萎えてしまった筋肉は、相当鍛えないといけませんね」と付け加えた。

言われるまでもなく、私はこのところ急に痩せ落ちて細くなった自分の足が気になっていた。六キロも体重が落ちたことは、痛みとストレスからの不眠だけが原因ではなかった。

手術日が決まるとその一週間前が入院日となった。更に入院日から三週遡って、週一回の割合で血液を採ってもらうために通院することになった。
「貯血」と言って、今は手術の際に必要となる輸血用には、事前に自己血を貯えて、それを本人の体内に戻すという方法がなされている。それでも足りなくなった場合は、親族のものよりも血漿製剤と言って血液センターの保存血が使われる。それに、いくら本人の血液が最良だと分かっていても、すべての患者の身体状況が貯血に応じられるとは限らない。

第一回目の貯血は四百CCだった。

その日私の右腕の血管にはずい分太い注射針が刺された。
「ぐー、ぱあ。ぐー、ぱあ、として下さい」と看護婦さんの指示通りに、ぐーとこぶしを強く握ると、ぐーと血が出てくる。恐ろしい現象だ。この調子で握りっ放しにしていたらどのくらいで死ねるかしら? などと考えたりした。

五分もすると、「ハイ、採れましたよ」と看護婦さんはボールのような丸い形のアルミ箔の保冷袋を見せて、「次週は二百CC採りますから」と言った。

採血後は五百CCの栄養剤の点滴と、鉄分補充にと内服用の造血剤が渡された。
四百CCの血を失った私は、さすがにふわふわと宙に浮いたような足取りで帰路に着いた。同行した妹は、「次週までに体力をつけねば」と言って、車を『かねよ』の前で止めた。私たちは昼食に鯉こくと特上のうな重を食べた。

二回目、三回目と貯血は順調に終わり、手術に備えて八百CCの血液は用意できた。

いよいよ二月二十三日、入院した。

入院は六十年ぶりだ。幼児の頃、腸チフスに患って伝染病の隔離病院に入院したが、それ以来だ。四歳で死線をさまよい、六十九日後に退院できて今日まで生きてこられた。

術前一週間は様々な検査をされる。

血液と尿の検査に始まって、胸部X線、心電図、肺機能、そして心臓エコーと腎シンチ。正しくは腎臓のシンチグラム。検査はコップ二杯の水を飲んで台の上に寝るだけだ。腎臓の形や機能が映像に写し出される。もちろん放射線による同じく骨シンチというのがある。検査を受ける者は台の上に寝るだけだ。機器が台の上部に設置されていて、頭部から脚部へとゆっくり移動する。側面のテレビに画像が写される。約四十分で私の全身の骸骨が現われてきた。

更にMRIや三DCT。いずれも体を小さなトンネル状の機器に入れられて停止する。

前者は磁気共鳴断層撮影と言って、何十枚もの分割写真による診断だ。このトンネルの中は明るいのだけれども、削岩機に似た音がガリガリ、コンコン、ガリガリガリガリと響く。この音が頭上で長く続くと、圧死するのではないかと、閉所恐怖症になりそうだ。

後者は立体像を写すCTスキャンである。

コンピューターによる医療機器の開発は著しく進歩しているが、これら一台の機器は高額であるから検査料も高額である。

しかし現在は、病気の診断に大抵は放射線とコンピューターを使うのが普通である。

患者を触診したり、聴診器を当てたり、顔色や様子では病気の発見は難しいのだろうか?

肺機能の検査だけは極めて自然であった。

直径二センチほどの厚紙の芯、ちょうどトイレットペーパーの芯のようだが、その筒を口にくわえて息を吸ったり吐いたりして呼吸量を測定する。ところが、フーフースースーしても、筒を通しては一向にメーターの針を上げるほどの空気を吹きこめない。笑えて吹き出してしまった私に、
「あんた下手やね、もうよろしいです」と、短気な検査技師はOKを出してくれた。

手術前の三日間の食事は低残渣(ざんざ)食と言って、消化がよく、殆ど腸内に残らないものばかりが給される。例えば豆腐料理では、玉子豆腐や、あんかけ温やっこだったり、味噌汁は具のない汁だけ。バナナやリンゴジュース。芋とカボチャ、それに白身の煮魚と大根おろし。

これは減量にいいなあとは思うが、私のお腹には少々物足りない。

そして手術前日の禊(みそぎ)。その語の示す通り、神に祈る前には身を清めなければならない。手術の際には無菌状態の身体になるように、これでもか、これでもか、と三回浣腸されて腸の中を空っぽにし、メスを入れる患部周辺の剃毛。一切の差恥心をかなぐり捨てて若い看護婦さんの前に身をさらさねばならない。

これはもう儀式である。無駄な抵抗は受け入れられない。

インタビュー目次

  • 人工股関節置換術インタビュー1ページ目
  • 人工股関節置換術インタビュー2ページ目
  • 人工股関節置換術インタビュー3ページ目
  • 人工股関節置換術インタビュー4ページ目

※対談の内容はあくまで体験者の感想です。症状や結果には個人差があるため、詳しくは専門医にご相談ください。

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