人工関節のページ / 医療現場を訪問 / 【特別座談会】「もし患者さんが、自分の家族だったら、私は何をすべきか」~人工関節を扱うクリニックならではのチーム医療とは

医療現場を訪問

【特別座談会】「もし患者さんが、自分の家族だったら、私は何をすべきか」~人工関節を扱うクリニックならではのチーム医療とは

はじめに
近年、多くの医療機関で導入されている「チーム医療」。そこでは、看護師をはじめ、診療放射線技師や臨床検査技師、理学療法士といった医療技術者や、最近では医療クラークといった新しい資格を持つスタッフも加わり、それぞれの専門性を発揮し、連携・補完しながら最善の治療およびケアが行われています。
その背景には、医療の高度化・分業化というシステムのデメリットがあり、それを打破するために、医療スペシャリストらが自発的に、懸命にチャレンジしている姿勢がうかがえます。

特別座談会取材風景彼らが最も重要視しているのは、患者のQOL(生活の質)向上。
厚生労働省が有識者検討会を開催し、数々の指標・ルール作りを進めていますが、実際の医療現場ではすでに多様な試みが実施されています。今回、人工関節を扱うクリニックで行われているチーム医療の実際を、生の声でお伺いすることができましたのでレポートします。

取材協力:大室整形外科(姫路市)

Q.それではチーム医療について、医療スタッフの皆さんにお集まりいただいて、お話していただきたいと思います。
まず最初に患者さんと接するのは外来ですが、こちらのクリニックでは"外来クラーク"という職種があるとお聞きしました。"外来クラーク"とは、どのようなことをなさってらっしゃいますか?

竹林さん(外来クラーク)竹林さん(外来クラーク):当院の外来クラークの主な役割は、診察室で医師のそばについて、患者さんが医師に話されている内容や、医師がどういう方針で治療を進めていくのかを、医師の代行として電子カルテに入力していくことです。
そうすることによって医師がモニター画面を見ずに、患者さんと真正面に向き合って話をすることができます。

山口さん(看護師) 山口さん(看護師):外来クラークがいることにより、医師は患者さんの目を見ながらしっかりと向きあい話ができますので、患者さんの安心感はずいぶんと違うようです。

竹林さん(外来クラーク):患者さんと医師の信頼の橋渡しをするのが、私たち"外来クラーク"の重要な役割です。医師が必要と判断した、レントゲン・注射・投薬等の指示内容も適宜入力しています。この電子カルテ上で入力した指示が、即座に看護師やレントゲン技師およびリハビリ担当者への指示書にもなります。
私たちは、医療を実際に行う医師やコメディカルスタッフ(※1)が治療に専念できる体制を支える役割を担っていると考えています。

(※1)医師の指示の下に業務を行う医療従事者のこと

Q.患者さんの中には、痛みや人工関節手術への不安を訴えられる方も多いのではないでしょうか?

大前さん(看護師)

山口さん(看護師):痛みを我慢され、正直に痛いといわない患者さんもおられます。患者さんの様子を絶えず気にかけ、こちらからの"声かけ"を大事にしています。患者さんが誰かに話すことで「気持ちをわかってもらえた」と感じて、痛みやストレスから少しでも解放されれば良いなと思っています。

大前さん(看護師):痛みの感じ方は、個人差があり一人ひとり違うものです。
医療の現場に長く携わっていますと、痛みを感じるということにやや鈍感になり、手術後一週間位したら痛みは治まるだろうとか、画一的な先入観にとらわれがちになってしまいます。
だから、なおさら患者さん一人ひとりの訴えに、耳をちゃんと傾けないといけないと思っています。

痛みの度合いを指し示すことができるスケール

山口さん(看護師):患者さん自身で、痛みの度合いを指し示すことができるスケール、物差しのようなものがあってそれを活用しながら対応しています。

大前さん(看護師):このスケールとは、痛そうな顔から笑顔まで、数種類の顔の表情が描かれている定規のようなものなんです。患者さん自身でそのスケールの上に矢印を動かして、今感じている痛みの程度を表してもらうのです。その日によって痛みの程度が違いますから、毎朝検温の時に確認しています。あとは客観的に、例えば膝が腫れている、赤みがないか等の状況も確認して、スケール上の数値と併せ、偏りのないように観察することを心がけています。

Q.手術前の患者さんへの精神的なケアについてはいかがですか?

岸本さん(手術室担当看護師)

大前さん(看護師):やはり手術に不安を持たれる方が多いですから、どのような内容の手術で、どのような麻酔を行ってなど、細やかな説明をきちんとできるよう心掛けています。特に、患者さんからのどのような質問にも、即答でわかり易く説明できるよう、日々学ぶことが大切だと感じています。
患者さんからの質問に、病棟の看護師が「手術室の看護師に聞いてみますね」と答えるのと、部署が違っても適切な回答をその場でもらえるのとでは、患者さんやご家族の受ける印象は大変違ってきます。

山口さん(看護師):不安感にも個人差がありますから、不安の強い方にはできるだけ話を聞き、またじっくり話をすることが大切です。

岸本さん(手術室担当看護師):手術室担当の看護師も必ず手術前には病室を訪問して、患者さんと面談します。まずは挨拶して話をし、手術室で初めて顔を合わすということがないようにしています。また、術前に麻酔科診察もあり、麻酔の専門医から麻酔について説明してもらいます。それが、患者さんには不安なことや疑問に思っていることを直接聞いてもらえる場となり、不安の解消の一助ともなっています。
手術を受けようとされる方は、麻酔に対する不安は大なり小なりお持ちなので、できる限りそこで取り除くようにしています。

Q.患者さん側にも色々聞ける機会が用意されているのですね。ところで、手術といっても色々ありますが、人工関節手術に特有な点といえばどういうものがあるのでしょうか?

手術室風景

岸本さん(手術室担当看護師):基準に則った空気清浄度のクリーンルームを使い、宇宙服のようなフードを着用して手術を行います。手術で患者さんが感染しますと骨自体はもちろん、全身状態にも影響しますし、全員が気をつけるようにしています。

大前さん(看護師):私も最近手術室に入っていますが、人工関節の手術では使用する器具がとても多いと感じています。

岸本さん(手術室担当看護師):それらの器具を、どういう流れで使っていくのかを全て把握しておかないと、術中に医師の手を止めてしまうことになってしまいます。重要なのは、医師が行う手術の流れに乗って医師のリズムを乱さないようにサポートすることだと思っています。

Q.手術全体をスムーズに行うためにも、やはりチームプレーは大切なのでしょうね。

座談会風景岸本さん(手術室担当看護師):もちろんです。当院では一週間に一回、医師と各部門の担当者がカンファレンス(会議)を開き、どの患者さんにどういう手術をするのか、また術後の患者さんの具合はどうかなど情報交換を行い、みんなで情報の共有化を図っています。
また、スタッフが治療にあたり、気になる患者さんの手術内容を知りたいであるとか、今後のリハビリの参考にしたいという希望があれば、レントゲン技師や理学療法士が手術室に入って見学することもあります。共通理解を深め、手術の内容を知ってもらった上で、各部署での医療に活かして欲しいという考えで、いつも治療に臨んでいます。

Q.手術のあとはリハビリですが、専門的なクリニックにおけるリハビリのメリットについて、どう思われますか?

長井さん(理学療法士)長井さん(理学療法士):専門性の高いクリニックでは、同じ症例での経験を豊富に積んでいますから、その症例のトラブルに強いことがあげられます。患者さんにとって何か良くないことが発生した時の"気づき"が早い。"気づきが早い"と素早い対応が取れるので大きなトラブルになるのを防ぐことができます。

山口さん(看護師):当院では、手術が決まれば手術前からリハビリを積極的に行います。

Q.「手術前のリハビリ」ですか?

座談会風景長井さん(理学療法士):そうです。手術を受けられることが決まると、まず患者さんの手術前の身体状態の評価をします。該当箇所の関節がどれだけ動くのか、どこまでの動作が可能なのかなどについてですね。その上で手術後のリハビリのための準備運動をしてもらいます。
リハビリに慣れてもらう、つまり、より深くリハビリを知ってもらって、術後のリハビリに臨んでもらうという意味合いが強いですね。

Q.術後のリハビリをスムーズに進めるために?

長井さん(理学療法士):はい。まず体の基本的な動かし方を知ってもらうところから始めます。手術の後、人工関節を支える筋肉や靭帯をなるべく滑らかに動かせるように、手術前から準備運動をするという感じでしょうか。人工関節を入れると、最初は思っている以上に違和感を感じられる方が多いのです。術前から動かし方を意識して行動してもらうことで、立ち上がりから歩きだすまでの動作がスムーズに移行しやすくなります。
また、「人工関節を入れたら今までできなかった、あれがしたい」とか、「これができるようになりたい」とか明確な目標を設定してリハビリを行えるという意味においても、術前の状態を共有しながらリハビリを開始することは大事なことです。

山口さん(看護師):リハビリに関しては術後の地域連携も密にしています。当院では、現在術後約二週間で退院される患者さんがほとんどです。それ位の期間で元気に自宅に帰られます。ただ、まれに色々な理由で二週間では自宅に戻るのが難しいこともあります。その場合には他の病院に転院してもらい、もう少しリハビリを続けていただくこともあります。

長井さん(理学療法士):その時は、転院先の理学療法士に、入院中に行っていたリハビリの治療内容の詳細を伝えますし、特に密接に連絡を取り合っている病院なら、より連携を深めたリハビリができるよう一緒に勉強会を開くこともあります。
患者さんも、どの医療機関でも同じ内容のリハビリを続けられれば安心でしょうし、複数の医療機関でギャップが生じないように、常日頃から配慮しています。
私たちの立場からすると、入院中の患者さんとの付き合いは二週間位ですから短いんです。だからこそ、手術前からリハビリを通して付き合っていくというのは、患者さんとより良い関係を築く上で重要だろうと思います。"手術後のみのリハビリ"というのは、患者さんにとって身体状態の一番悪い時からのリハビリの開始です。辛い精神状態からのスタートです。そのような状態からでは、患者さんとの距離をなくすのに時間がかかってしまいます。
逆に、手術前から患者さんの状態を知っていますと、手術されて日々良くなっていくのがはっきりわかります。私たちも、その良くなる過程を目にすることが本当に嬉しいですし、患者さん自身にも自分が良くなっていることを自分で感じ取ってもらうことが大切だと思います。
患者さんには、手術前の歩いている姿を動画で映像に残して、手術後の歩く姿と比べて見てもらい、どの位改善されたか確認してもらっています。実際の回復を自覚され、リハビリを行う上で、さらなる励みになればと思っています。

Q.患者さんとの距離が近い医療機関という印象ですが、何か思い出深いエピソードなどありますか?

座談会風景

山口さん(看護師):二年前、ここにいる大前が大晦日から元日にかけて勤務しておりました。病棟には年末に手術を受けられて、お正月に家に帰られない患者さんが数名残っていらっしゃいました。

大前さん(看護師):残られた患者さんは、せっかくのお正月にずっと病室にいるのは息が詰まる思いだろう、気分転換も必要じゃないかと考えました。それに私自身も一緒に新年のお祝いもできるし、みんなとの触れ合いも大切と思い「初日の出を見ましょうか?」と誘い、みんなで薄暗い屋上に出ました。ちょっと寒かったので毛布を掛けて初日の出を拝み、記念撮影をしました。良い思い出になったと喜ばれました。

山口さん(看護師):当院では病棟の看護師が外来勤務もすることが多いです。そうすると、理学療法士の長井もいったように、私たちも入院前・入院中・退院後と患者さんにずっと一貫して関わることができます。目に見えて良くなっていかれる過程を私たちも実感できるのです。

長井さん(理学療法士):19床という規模は小さく思われるかも知れませんが、患者さん一人ひとりの容態を把握して、スタッフ全員が共通認識を持ち得るには、ちょうどいい規模のような気がします。

岸本さん(手術室担当看護師):それはいえますね。私たち手術室担当看護師も、手術だけに関わるのではなく、術後の患者さんの様子を知ることも容易にできますから。手術の後にお会いして、お礼をいってくださったりします。こちらも顔をしっかり覚えていますから、「あっ、歩けるようになられたんだ」「元気にしてらっしゃるんだ」と、患者さんの状態を肌で感じます。そういうことがまた、やり甲斐につながっています。

座談会風景竹林さん(外来クラーク):外来診察室では、患者さんは医師が席を外している僅かな間に、大事なことをふと漏らされたりします。「先生にはいいづらい」と思われていることを、私たち外来クラークにおっしゃることがあります。おそらく、私たちだから本音を話しやすいということがあるのでしょう。私たちは、それも医師に伝えます。患者さんの代弁者の役割も担っているのかも知れません。そうやって患者さんとコミュニケーションをとることにより、結果として医師と患者さんとのコミュニケーションを円滑にすることができます。
私たちクラークは表には出ないけれども、外来で実際にお話し、手術前から手術後の様子も知っていますので、患者さんと共感できることがたくさんあります。

長井さん(理学療法士):エピソードといえば、私の祖母が当院でひざの人工関節手術を受けました。安心して任せられたと、本当に喜んでいました。ここで働いている私にとっても、嬉しかったですね。身内にだけは本当のことをいってくれますので(笑)。

山口さん(看護師):当院の理念が、「もし患者さんが、自分の家族だったら、私は何をすべきか」なんです。理念だからやっているのではなく、スタッフ全員が自然にそんな気持ちになれる環境なんだと思いますよ。

(2012年5月 取材協力:大室整形外科)

人工関節のページ

ページトップへ戻る

病院検索 あなたの街の病院を検索!

先生があなたに伝えたいこと 動画によるメッセージも配信中!