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先生があなたに伝えたいこと

人工関節

[2010.04.22] 長い間痛みと付き合いながら歩いていた人にとって痛みなく歩けるというのは素晴らしいことなのだと実感します。

岐阜市民病院 加藤 充孝 先生 人工股関節

先生からのメッセージ: 長い間痛みと付き合いながら歩いていた人にとって痛みなく歩けるというのは素晴らしいことなのだと実感します。人工股関節置換術を受けた多くの患者さんの表情が術後明るくなるのを感じます。
Q.人工関節ではMIS(最小侵襲手術)がひとつの話題であると聞きますがどのようにお考えですか。

岐阜市民病院 加藤 充孝 先生 A.我々の手術には大前提の目的があります。たとえば人工股関節置換術の目的は、股関節の疼痛をなくし、歩く機能や日常生活動作をやりやすくするためのものです。しかも脱臼や感染などの合併症を少なくし、長くその機能を維持することが大前提です。ですから大前提を獲得できる範囲内での低侵襲手術には大賛成です。筋肉や腱、関節包を切らないアプローチは理想的です。ですが皮膚切開や展開を小さくすることにこだわりすぎて、その為にインプラントの設置が不適切なものになれば本末転倒です。現在我々の施設では、良好な長期成績を期待しセメント人工股関節置換術を施行しておりますが、きちんとインプラントが設置できるうえで必要最小限の展開をこころがけ、11~13cmほどの皮膚切開で行っております。しかしながら今後も大前提をクリアしたうえでのさらに低侵襲な方法を追求していきたいとは思っています。また症例に応じての展開の仕方が違ってくることもあると思います。大雑把にいうと手術の難易度が高い場合と低い場合がありそれぞれに応じた必要最低限の展開があると思います。

Q.セメントでインプラントを固定するタイプとセメントを使わないタイプがあるようですがどのように違うのですか。

*”(骨)セメント”とは、人工関節手術で用いる充填剤のことをいいます。

岐阜市民病院 加藤 充孝 先生A.セメント固定人工股関節(以下セメント固定タイプ)では、まず骨セメント(*)を、掘削した骨に挿入しそのセメント内にインプラントをさらに圧入します。すなわち骨とインプラントの間にセメントが介在します。(*1)一方セメントを使わないタイプは掘削した骨に直接金属製のインプラントを設置します。(*2)その後徐々にインプラントの表面に直接骨が骨が絡みしっかりとした結合をします。現在日本ではセメントを使わないタイプの人工股関節置換術のシェアが多いですが、スウェーデンの股関節登録制度をみるとスウェーデンでは実績のあるセメント固定タイプのシェアが多いです。(www.jru.orthop.gu.se Annual Report 2007 Number of primary THRs per type of fixation, 1979-2007の棒グラフを参照)どちらにも長所と短所があります。

(*1)セメント固定タイプ (*2)セメントを使わないタイプ セメント固定タイプは長い実績があり、実際の良好な長期のデータがあることが強みです。大腿骨側のインプラントの弛みでみた場合、30年で90%が弛んでいなかったとするインプラントの報告もあります。(骨盤側のインプラント成績はそれ程までによい成績を示したものはまだありません。)スウェーデンの股関節登録制度によるとセメント固定タイプはセメントを使わないタイプと比べ,良好な長期成績を示しています。一方短所は、セメントテクニックを要し、セメントが硬化する数分のうちにきちっと設置しなければならないという時間的制約がある点ですが、熟練したセメントテクニックをもった術者が行ったセメント人工股関節置換術は、信頼性の高い手術であると考えています。しかしセメントを使わないタイプも著しく発展していますので今後の10年~30年の調査でそれをも上回るような成績を示すインプラントも出てくるかもしれません。

Q.人工股関節置換術を受けるタイミングに関してはいかがでしょうか。

岐阜市民病院 加藤 充孝 先生A.人工股関節のいまだ抱える宿命として、“永久にもつといえるものではない”ということです。術後10年、20年、30年と経過するにつれて関節のすり減りや弛みなどの問題において、人工股関節の入れ替えの手術(以下再置換術)を要する割合が増えてきます。また、若く活動性の高い人の人工股関節の寿命は、高齢の方の人工股関節の寿命に比べ、短いと報告されております。そのようなことから、以前は青年期の人工股関節置換術はタブー視されてきたところがあります。しかし近年、手術手技やインプラントのデザイン、材料の改良により人工股関節の寿命ものびつつあります。さらには再置換術の発達もあり人工股関節置換術を選択する年齢が以前に比べ低くなってきている傾向があると思います。骨切り術などの、他の治療の適応が難しい場合、30歳代後半の方でも人工股関節置換術を施行することもあります。しかし骨切り術や臼蓋形成術、股関節鏡手術、筋解離術なども有効な治療の選択肢でありますので個々にとって最適と思われる治療を患者さんの背景なども踏まえバランス感覚をもって選択する必要があるでしょうね。
 近年人工股関節置換術の適応が拡大している傾向があるように思うのはやはり人工股関節は“痛みの切れ味がいい”ということを多くの医師も実感しているからではないでしょうか。比較的短期間に痛みが和らぎ術後早期から制限なしで体重をかけることができるのは患者さんの要求を満たした治療法と思います。
  それと患者さんが今ある痛みをどうとらえているかも重要と思います。多少痛くても受け入れられるような痛みであれば手術をせず経過をみるのは多くの場合問題ないと思います。ただ、股関節周囲の骨が短期間で壊れてくるような状態であれば、患者さんがそれ程痛くないと言われても手術を勧める場合があります。インプラントが入る土台の骨の状態が良くないと手術が難しくなったり、術後の成績が落ちたりすることがあります。特に人工股関節置換術後の弛みに対する再置換術のタイミングは患者さんが受け入れられる痛みであっても整形外科医が手術を勧めることが多いのではないでしょうか。

Q.先生ご自身の、人工股関節に対する考え方も変化してきたのですね。

岐阜市民病院 加藤 充孝 先生A.そうですね。以前は比較的若い患者さんであればできるだけ年齢が経過するのを待ってから手術を勧めておりました。しかし人生を有意義に生きるという意味では活動性が高い時期を痛みなく過ごせるようにできればそれにこしたことはありません。トレーニングを受けた施設での経験と人工股関節置換術のスキルアップが、私に手術適応を拡大させたのは言うまでもありません。比較的若い患者さんは回復も早くほとんどの方が退院時には喜んで帰って行かれます。そして次に外来でお会いするときには表情が明るくなっていることが多く“痛みなく歩けるということは素晴らしいことなんだな”と患者さんの表情からも実感することがあります。ただ、医療者側の思いと患者さん側の思いとは一致するとは限りませんから、十分説明したうえで、後は患者さんが判断することだと思います。多くの患者さんは手術に対し“怖い”とか“不安な気持ち”を持っていて「手術以外の方法で治りませんか」というのが本音であることが多いです。こちらとしては「お気持は分かりますが手術以外では著しい効果のある治療はないのが現状です」ということになることが多いです。レントゲンで、股関節が傷んでいるほうの大腿骨の骨が、瘠せてきているのをみると、長い間傷みで体重をかけきれてないのがわかります。そのような方で人工股関節置換術が適応となれば手術を勧めたいですね。喜んでいただけると思いますから。もちろん合併症も0%ではありませんから手術の成功を100%保障するものではありません。しかし効果の高い手術であり、合併症の内容やその発生率も含め説明したうえで患者さんがどう判断されるかです。模型やインプラントなどを用いできるだけ説明するように心がけていますが、限られた外来診療のなかでは限界もあります。またこちらが話したことがうまく伝わらなかったり聞き間違えたりするようなこともあるでしょうから、A4用紙3枚ほどの紙にまとめたもので説明し、患者さんに渡しています。

Q.人工股関節置換術後の生活についてはどのようなお考えをお持ちですか?

岐阜市民病院 加藤 充孝 先生A.人工股関節置換術の術後合併症の一つに脱臼が挙げられます。関西医科大学で人工股関節置換術のトレーニングを受ける前は、人工股関節置換術後の脱臼についてナーバスになっていましたね。術後の患者さんには、「こんな姿勢はいけません」「このような動作はいけません」と指導し、生活動作にかなり制限をかけていました。実際に2年間人工股関節置換術のトレーニングを受けさせて頂くことになり、その間に教えていただき、また実感したことですが、適切な手術が行われれば3カ月から半年ほど経過すると脱臼を恐れ、それ程シビアに生活動作を制限する必要はありません。
  そのことを患者さんへのアンケート方式を用いて検証してみました。その結果、7割の方が正坐可能、約6割の方がしゃがみ込み可能、約5割の方が和式トイレの使用の経験あり、4割の方が自転車にのっておられました。これらの動作が可能であった割合は、手術前より術後のほうが増加しておりました。およその感覚として手術前にできていた動作は術後も可能であることが多いといえる結果でした。もちろん脱臼する可能性は0%ではありませんが関西医科大学での調査の結果、特殊な疾患を除けば0.5~1%程度の脱臼率(施設間では差があります)であり、そのことを恐れて極度に生活を制限するよりは患者さんのもっている能力を引き出してあげたほうが有益だと実感しました。患者さんの生活の質を高めることが我々整形外科医の仕事の柱ですから、今後さらに満足度の高い治療を追及したいですね。

Q.本年4月より週に1度、成人股関節専門外来を開設されたそうですが、どのような思いで開設されたのですか?

A.トレーニングを受け、最も興味のある成人股関節疾患を請け負いたいという覚悟から開設いたしました。“股関節外来”という看板をかかげることで患者さんにわかりやすい形でアピールしているのです。自分の中で最も自信のある疾患を診させていただくことは、患者さん側と医療者側双方にメリットがあるとおもいます。ただ一般整形外科として様々な疾患と係わってきた経緯があり、現在も股関節以外の疾患を多く診ていてまだ股関節外来という感じではないですね。

Q.最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

加藤 充孝 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2010.4.22

*本ページは個人の意見であり、必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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